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3月21日〜28日 第8巻 『流星』

3月21日

30歳になった。29歳の誕生日を期に始めたこの日記だが、まだ鬼平犯科帳全巻セットのうち3分の1くらいまでしか読めていない。先は長い。

昼から高円寺に行き、若手落語家・講談師のユニット「ルート9」のフェス公演に行く。前座とゲストの春風亭昇太師匠を含めると全11名出演、4時間弱の長丁場で、たくさん笑った。ルート9は演者それぞれの個性が違うしわちゃわちゃしているのが微笑ましくもある。昇太師匠は本人の明るいキャラから、まさか持っているとは思っていなかった「一眼国」。見せ物小屋の主人のキャラは昇太師匠にも合っているし、不気味なトーンを醸し出しているのもよくて、こんなテイストもできるんだなぁという嬉しい出会い方だった。

ひとり焼肉をして、帰宅したら真山さんとひぃさんからほしいものリストに入れていた歌集が誕生日プレゼントとして届いていてテンションが上がる。30歳は歌集にたくさん触れたい。

男性ブランコの『変身東京ウミウシ』アーカイブ動画を見る。「デニム」のコントが好き。ジーンズをロールアップすると「モノクロだった世界が鮮やかに色付く」と思って、落ち込んでいる友達にひたすらロールアップさせるという、書いてみるとなんやねんという感じのネタなのだが、本当になんでもない動作の中から、ささやかにハートフルな瞬間が生まれるのがキュンとなる。「世界ってさぁ、世界ってこんなにも目に嬉しい」は名フレーズ。

で、ルート9フェスの打ち上げをクラスターというアプリを使った仮想空間で行うというので参加。いろんなアバターがわちゃわちゃしている中でメンバーがあれこれ喋ったり色々試したり、という感じ。仮想空間内での落語会とかもそのうちやったりするのかしら。

3月22日

『水上バス浅草行き』を読み終える。まほぴさんの短歌はTwitterでバズったこともあり、それきっかけで初めて歌集というものを手に取る人も多いと思うんだけど、そういう人たちに「嬉しいことも悲しいことも誰かに話すほどでもない日常のささやかな発見も、31文字の詩型に落とし込むとなかなかいい感じなんですよ」ということが軽やかにしみじみと伝わるようなそんな歌集。
冒頭の仕掛けや、歌集本編の最後に置かれた短歌などから「この日常はいつか夢のように儚く消え得るのだ」というトーンが漂いつつも、そこで詩の形にして残していく出来事は別に大したことでなく、平日の明るいうちにビールを飲んだり、髪を染めてうきうきしたり、友達と水上バスに乗って楽しかったことだったりする。それはあまりにささやかすぎて、その全てを覚えてはいられないかもしれない。でも31字の詩にすれば、その時の感覚をかすかに引き出すことができる。誰かに分け与えることもできる。

ポニーテールをキャップの穴に通すときわたしも帽子もしっぽも嬉しい(岡本真帆)

僕は題詠大喜利型なので、日常の感触を掬い取っていくタイプの作り方に苦手意識がある。この辺りもうちょっと、自分なりにできるようになっていきたいな。

3月23日

文フリまでまだ日にちがあるのと初めてで不安だったので、試し刷りを先に3冊分作ることにした。印刷所に入稿するのが初めてだったので、何度も設定を確認する。入稿して振り込みも済ませてとりあえず一安心。自分の本が出来上がってくると思うとワクワクするね。『雑談・オブ・ザ・デッド』も作業を進めねば。

3月24日

明日は有給休暇にしたので、仕事の引き継ぎをあれこれやる。平日を休みにするの久々。

録画していた平家物語のラスト2話分を見る。歴史上の敗者となったり戦線から退いたりした人たちに、「お前のことを語り継ぐぞ」と伝えていくびわ。誰かが覚えていてくれる、ということだけでも、ささやかながらしかし大きな心の支えになる。クライマックス、誰もが唱える「祇園精舎の鐘の声」が胸を打つ。

3月25日

久々の有給休暇。とはいえ用事はなく、天気がいいのでぶらっと外に出る。給料日でもあるので、家賃など諸々の振り込み。
本屋行こうかなぁと思い、吉祥寺で防破堤と百年を覗いてから西荻窪へ移動して、fuzkueでジンジャーミルクとチーズケーキ。ことばとの佐川恭一『舞踏会』を読み、『編集の提案』も読み進めてから高田馬場へ移動。

ここで見逃したらまた見るタイミングを逃し続けそうだなぁと思ったので、早稲田松竹で『コーヒー&シガレッツ』『ナイト・オン・ザ・プラネット』のジャームッシュ二本立て。
『コーヒー&シガレッツ』は短編集というより掌編集といった感じだ。「変な出会い」で向かい合っていた二人が座ってる席を交換してまた元の席に戻る描写があるんだけど、これを見ながら、落語で同じ場面内で「座り位置を移動した描写」として登場人物の上下を入れ替えるってやった人いるのかな、とか思っていた。「ジャック、メグにテスラコイルを見せる」「いとこ同士?」がコントとしてすごく好き。
『ナイト・オン・ザ・プラネット』はニューヨークのパートが良かった。移民で英語も運転もままならないタクシー運転手と、ガラは悪いが親切な黒人青年の客との交流を描きとってもハートフルかと思いきや、そこから移民がたった一人でアメリカの街を生きていかねばならない心細さに引き込まれて、複雑な余韻。

Twitterを見たら青山真治監督が亡くなっていた。そこまで熱心に見ていたわけではないが、やっぱり『EUREKA』などは印象に残っているし、Twitterはフォローしていたし、最近日記本も出たところだったから結構びっくりしてしまった。気になってるけど観てない作品いくつかあるんだよな……これを機に観てみようかな、遅いけど。

夜、日本映画専門チャンネルで『街の上で』をやっていて、途中から観て、結局最後まで観てしまった。道端で揉めるくだりは本当に面白いな。

3月26日

TwitterでAC部の展示会をやっていると聞き、しかも行けるタイミングが今日くらいしかないと分かったので、クリエイションギャラリーG8へ。「異和感ナイズ展」はAC部の表現テクニックを紹介するコーナーも興味深かったが、普段のAC部のカオスな印象とは異なる、ポップでおしゃれなキャンバス作品がかわいらしくて好みだった。こっちの方向性は作品集とかあったりしないのかしら。

帰って男性ブランコの『変身大阪ウミウシ』のアーカイブ視聴。東京公演の内容にコントを3つ追加した90分公演。「デニム」がパワーアップしていてよかった。

夜はツイキャスでラテさんのインタビュー。ラテさんが博士課程と会社員の二足のわらじ生活を始めた20年3月から、一年ごとにツイキャスをやっては、近況を聞いてきている。
21年度は仕事を辞めて研究に専念、実家に帰省、遠距離恋愛スタートと、激動の一年だったらしいけど、心機一転スタートを切って前向きに頑張ろうとしているタイミングのラテさんに話を聞けたのは楽しかった。

3月27日

代官山蔦屋で新刊チェックしてから下北沢へ。BONUS TRACKのイベントへ行き、代わりに読む人ブースで初売りされていた佐川恭一『アドルムコ会全史』を購入。友田さんとも少し話す。『アドルムコ会全史』と『うろん紀行』は表紙の絵やデザインは全然違うのに、なんとなく佇まいから「代わりに読む人という同じレーベルから出ているんだな」という共通の雰囲気が感じられてよい。

渋谷へ移動してSPBSへ移動し、そこでも本を買って、電車でうとうとしながら帰る。夕方に家に帰ったのにYouTubeなど見ながらぼんやり過ごしているうちにすっかり夜中になってしまった。

3月28日

有給あった分、3連休明けなのでなんだかぼんやりしながら仕事をしていた。とはいえ細々とした仕事が降ってくるのでそんなに余裕があるわけでもなく。

鬼平は『流星』。同心の家族が殺される事件が発生。その隙を突くかのように急ぎ働きの強盗事件も起こり、同一の犯行グループによるものだと判断した平蔵は怒りに燃える。
今回は6巻『大川の隠居』に登場した友五郎が再登場する。以前、平蔵の自宅から煙管を盗み平蔵を感心させた友五郎。平蔵に見逃してもらって以降はすっかり足を洗っていたのに、脅された結果盗みの片棒を担がされてしまう。事件解決後、優しい言葉をかける平蔵と、それを聞いて子供のように泣きじゃくる友五郎の場面が切ない。
それから凄腕の浪人二人と平蔵の対決の描写もすごい。馬に乗っている平蔵を浪人が襲撃。平蔵がそれを交わしたことで、刃は馬を切り裂く。痛みに暴れる馬に相手が怯んだ隙に体勢を立て直す平蔵、というこの一連の描写が手に汗握る。文体は他の場面とそれほど変わらない淡々とした描写ながら、アクションの描き方がいつも上手いんだよなぁ。

夜は友達とLINEで諸々の作戦会議。4月から大仕事が始まる友人もいて、色々楽しみなことが多い。それにしても、もうすぐ新年度か。早いなぁ。

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