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091.男女七人百物語

「これは、本当にあった話なんだけど。
 友だちと『百物語やろう』ってことになったのね。あの、怖い話を順番にしていって、ひとつ話すごとにろうそくについた火を吹き消していくやつ。百個話し終わって最後のろうそくを消した瞬間に何か起こるっていう、あれ。あれやろうってことになったの。
 で、参加者は男が俺含めて四人で、女が三人。ぜんぶで七人で、百物語やろうってことになって。それで、一応、当日までに怖い話を準備していかなきゃいけないじゃん。七人で交代しながら話すわけだから。それで、ネットで怖い話をググったりしながら、ふと気付いたんだけど、百個の話を七人で割ったら、単純計算でも一人あたり十四とか十五個くらい、怖い話をしなきゃいけないわけ。結構多いよね。『うわ、そんなに怪談用意しなきゃいけないのかぁ~』ってもうその時点で心折れててたんだけど。しかもさ、みんなだって同じようにググって怪談話のストック増やしてる可能性あるわけじゃん。いや、もちろん怖い実体験があれば、それ話してもいいんだけど、そんな霊感がありそうなやつもいないしさ。たぶん、同じようにネットで仕入れた怖い話を持ってくる人が多いと思うのね。そしたら、同じ話が被っちゃう可能性あるでしょ。そうなったらヤバいから、予備の怖い話とかも準備しなきゃいけなくなる。もう覚えるのだけでも大変な数、怪談を準備しなきゃいけないわけで。『え、これマジでやるの?』って感じになったから仲間のひとりに一旦連絡取ってみたんだけど、『やろうよ、っていうかろうそく百本、もう買っちゃったし』って言われて。ほんとにろうそく百本使うのかよって思ったけど、まぁ仕方ないから怖い話をめちゃくちゃ調べて準備していったのね。
 当日、仲間の中で一番部屋が広いやつの家に集まったんだけど。って言ってもさすがにろうそく百本を並べるの無理だから、話す前に一本火をつけて、話し終わったら吹き消すっていう感じで進めていって、みんな、なんかテンション低い感じなのね。いや、別に百個話し終わったら何が起こるんだろうってビビってるとかじゃなくて、単純に今から一人あたり十四個とか話すの、正直ダルいな~って感じだったんだけど。まぁ、始まると、それなりに怖く話すのが上手いやつもいてほどほどに盛り上がったの。でもそれも最初の一周とかだけで、だんだん飽きてきちゃって。途中でやっぱり話が被ってきて『え、その話、さっきのとオチ一緒じゃない?』ってことにもなったりしたし、何時間も経ってくると疲れてくるしさ。あと、七人の中に付き合ってるカップルがいたんだけど、彼氏の方が『これは本当にあった話なんだけど…』とか言って、元カノとデート行ったときの話をしだしたのね。そしたら今の彼女が『何それ! そんなの聞いてないんだけど!? っていうかその頃、もう私たち付き合ってなかった!?』ってブチギレちゃって、痴話げんか始まったりして。なんだかんだ、怖い話よりその時の喧嘩が一番盛り上がったんじゃねぇかな、いま思い返すと。
 夕方過ぎから始めて、百個話し終わる頃には明け方近くなってたな。最後のやつが話し終わって、ろうそくの火を吹き消した。部屋が暗くなって、何か起こるのかなってちょっと待ってみたけど、何も起きなくて。『なんだよ、ここまでやったのに、結局何も起きないじゃん』って言って、部屋の電気つけたのね。それで、『あれっ?』って思った。
『あれっ? 一人、いなくない?』
 男友だちが一人減ってたんだよ。田伏ってやつ。どこにもいなくなってて。七人で始めたはずが、六人になってた。百個めの話を聞いてる時はまだいたんだけど、ろうそくの火が消えて、部屋の明かりがつくまでにいなくなってた。他のみんなも『あ、本当だ、いなくなってる!』『え、マジで、何これ?』って騒ぎ出して。俺が『田伏どこ行った?』って言ったの。そしたら、残ってる仲間の一人が『田伏って誰?』って。
『田伏だよ、田伏がいないじゃん』
『誰だよ、田伏って。いなくなったの、ミノワだろ?』
『は?』
『え、ごめん、二人とも何言ってるの? いないの、ユミちゃんじゃん』
『ユミ? ……え、誰それ?』
 友だちが一人消えたっていうことはみんな認めている。元々、俺たちは七人いて、そのうち一人が消えた。それは認めている。でも、誰が消えたのかに関しては六人とも言ってることが違う。俺は田伏っていうやつがいなくなったって思ってるけど、他の五人は田伏なんて知らないっていうんだよね。そして他の五人が消えたって騒いでる、ミノワとかユミちゃんとかのことを俺は知らない。それぞれ、違う人が消えたって言い張って、そして、その人物を他の五人は覚えていない。それがわかったとき、俺たちは意味がわかんなくて、わかんなすぎてさ、茫然として、それから、」

火が消える。暗転。

明かりがつくと、目の前には誰もいない。誰もいなくなっている。しかし、そのことを知っているのはあなただけだ。

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