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2020年8月 月報

ここ数年、夏休みはあちこち出かけたり、実家に帰ったりしていたのだが、今年はもちろんご時世的に帰省はムリだし遠出もなぁという感じなので、映画を観たり本を読んだりして過ごした。前から気になっていた「本の読める店fuzkue」へ行けたのは嬉しかったな。読書がずんずんはかどったし、シャンディガフがなんか鈍い甘味のようなものがあって「これは好きなやつだ!」となって、ご機嫌だった。新宿で夜の映画のチケットを買っておいて、上映時間までfuzkueで読書というのが割と見事な1日の過ごし方なのでは、と発見したので、またそれをやりたい。

fuzkueを知るきっかけは柿内正午さんの『プルーストを読む生活』で、『プルーストを読む生活』を手に取るきっかけは、例えば文フリにもりたが参加していたからとか、『時間のかかる読書』を読んでてスロー読書な試みの本が割と好きだったりとかで、そしてそれらにいたるまでにもきっかけがあって、という感じで、順調に繋がりながら新たな興味や出会いが生まれてきていることを考えると、俺は全然大丈夫だな、という感じがしてくる。ちゃんと楽しみが連鎖して広がっている。

『君が世界のはじまり』や『いきなり本読み!』によって、松本穂香ブームが僕の中で到来している。『いきなり本読み!』で、その場で渡された台本のセリフ回しについて、初見で正解を出してくるその表現力の高さがサイコーだった。『君が世界のはじまり』『わたしは光をにぎっている』など、ちょっとおっとりした感じのキャラクターの演技がめちゃいい。顔立ちがなんだか眠そうな感じなんだよね。とはいえ、おっとりしているように見えて、何か思惑を抱えていたり、妙に頑ななところなどの心のひだもしっかり見せてくれる演技力の素晴らしさよ。
他に観た映画では『ブックスマート』が楽しかった。予告編にも入っているビンタシーンのような、自己肯定感の低い人に対して近くにいる友人とかが「いやいや、あんたはめちゃ素晴らしい人だよ」と言ってくれる感じの場面に弱い。『私立探偵ダーク・ジェントリー』とかもそういう場面が好きだったんですよね。

仕事の方はというとブルシットジョブ感がドンドン高まっていてうんざりしている。でも、今月はZoomで楽しくおしゃべりする機会も何度かあったし、来月は既に人と会う予定とかが決まっていたり、こういうことしたいねという話があったりして、楽しみがまだ続いているのが喜ばしい。

・読んだ本

ブレイディみかこ『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』
大前粟生『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
山本貴光、吉川浩満『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。 古代ローマの大賢人の教え』
チョン・セラン『フィフティ・ピープル』
柴崎友香『かわうそ堀怪談見習い』
佐久間裕美子、若林恵『それを感じているのは私だけじゃない こんにちは未来 ジェンダー編』
佐久間裕美子、若林恵『どこに出口があるのかはわからないけれど こんにちは未来 アメリカ編』
佐久間裕美子、若林恵『みんなもっと好きに言ったらいいのに こんにちは未来 メディア編』
栗原康『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』
映画パンフは宇宙だ『PATU MOOK vol.01 大島依提亜と映画パンフ』
友田とん『パリのガイドブックで東京の町を闊歩する 1 まだ歩きださない』
西東三鬼『神戸・続神戸』
はらだ有彩『百女百様 街で見かけた女性たち』
阿久津隆『本の読める場所を求めて』

夏休みがあった分いつもより読めた感じがある。
『こんにちは未来』は3冊セットで、ポッドキャスト番組でのトークを書籍用に再構成した本。ポッドキャストを元々聴いていたんだけど、なかなか音声だけでは消化しきれない情報量だったりするので、こうやって文字で理路を追えるのはありがたい。『ブックスマート』での男女関係ないトイレ描写を見ながら、ジェンダー編でのトイレ・混浴風呂の話を思い出したりもした。
『フィフティ・ピープル』は長期間にわたってじわじわ読み進めていたんだけど、掌編一つずつの濃度がすごくて、油断していると涙がこぼれそうになるので、通勤電車での読書はちょっと困ったりもした。チョン・セランは他の作品もどんどん読んでいきたい。
『パリのガイドブックで東京の町を闊歩する 』は、『「百年の孤独」を代わりに読む』の友田とんさんのリトルプレスで、40ページくらいの冊子なのだが、めちゃくちゃ可笑しくてゲラゲラ笑いながら読み終えてしまった。なんなら、そんなにパリのガイドブックを読んですらいなくて、なかなかフレンチトーストが食べられないことに関する記述が続く。強いて言えばパリ→フランス→フレンチトーストという緩い繋がりがある気がするが、フレンチトーストのフレンチってアメリカ人のフレンチさんが由来だったような。
『百女百様』、はらださんの『日本のヤバい女の子』シリーズが結構好きで、その上サイン本でもあったりしたので、これは即購入してしまった。サインとともに描かれた爽やかな女性の横顔が素敵。町で見かけた女性たちの服装をきっかけに、衣服が持つ歴史的背景や、装うことで余計にまとわりついてくる世間からの偏見について言及しつつ、誰しもが自分の装いに関して不当な呪縛を受けませんようにという祈り(あるいは好きなように装う人たちへの祝福)へ着地するというコンセプトを、イラストも手掛けつつ書ききる筆力が圧倒的でサイコーでした。
『本の読める場所を求めて』はfuzkueの店主による、「fuzkueができるまで」的な本。とはいえ店を作るまでの苦労話っていうわけでもなく、自分が成し遂げたいコンセプトをさらにブラッシュアップし、それを実現するために思考を尽くすプロセスが書かれている。筆致は柔らかだけど、姿勢はストイック。

・今月のBGM


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