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#恋人を喪った安田短歌 連作「昨夜未明」

「予知夢ってたまに見るんだ。安田くん、もう少しだけそばに座って」

変人と嗤わずそばにいてくれた笑顔の君を恋人と呼ぶ

仕事には私情を挟まないことにしてるから今だけはさよなら

君のこと想う隙など作らせず会議はいつも早口になる

君の手を握る術などあるはずもなく全区域避難勧告

「今どこ?」と聞く 「今どこ?」と聞いている 「今どこ?」と聞いた「今」はどこだ

地上へと置いてきたんだ君もあの秋に僕らを包んだ風も

地下道を出ずにこのまま過ごすなら君の不在は確定しない

どんなシミュレーションしても空白が僕の肩へと寄り添ってくる

初恋が灰となる夜ぼくら同じ酸素を吸う権利もなくて

いっせーの、せ、でとびこえていくようにあらゆる人がきえてしまった

思い出の場所に書かれたバツ印 此処には誰も だれもいません

神の火は平等ならば君もまた等しく被災者名簿に並ぶ

デモの声聞きつつ眠る辛いのは俺だけじゃない 俺だけじゃない

自転車に乗った姿勢が抜群に美しかった また昼のゆめ

朝焼けを仕事机に突っ伏して浴びているから涙も乾く

「今晩は早く帰るね」あの声がリフレインする作戦前夜

愛すべき宛を無くして哭く我のため爆ぜてゆけ無人の列車

スクラップ・アンド・ビルドで建つ街に君はいなくて明日の風景

忘れてもいいよと許すかのように落ちた紅葉を忘れずにいる



※映画『シン・ゴジラ』に登場する安田龍彦(高橋一生)が、ゴジラの襲撃で恋人を亡くしている妄想の設定で詠んだ短歌連作です。

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