ミシェル・ゴンドリーについてのメモ その1

 昨年の10月、東京都現代美術館で開催されていた『ミシェル・ゴンドリーの世界一周』展を観に行きました。ゴンドリーの手がけたMVや、映画の小道具の展示も面白かったのですが、一番の目的は「ホームムービー・ファクトリー」。当日集まった十数人の観客がチームとなり、場内に作られた撮影セットを使って映画を撮る、という体験型ワークショップです。

 最初の一時間で撮影したい映画のジャンルを絞ったり、ストーリーの大まかな流れやタイトルを決めていきます。
「ゾンビ映画を撮りたい」という意見が採用され、せっかく10月に撮るんだからハロウィンの町を舞台に「トリック・オア・トリート!」と家々を訪ねる子供たちを主役にしようということになりました。お菓子を目当てに町を歩き回る内に、町中の人たちがゾンビになっていると気づいた子供たち。逃げるように家に帰ると……、両親もゾンビだ! 実は子供たちの正体もゾンビ。最後は町中のゾンビが集まってパーティーを開く、というストーリー。改めて書くとなんて雑な話だとは思いますが(笑)、初対面の人たちと短時間で考えたにしては上出来だと思います。
 ちなみに僕は子供たちを家まで送るタクシー運転手の役でした。

 次の一時間で衣装や小道具の準備、具体的にどの撮影セットを使うかを決定していき、最後の一時間で撮影。

 撮影は順撮りで行われました。ストーリーに沿って冒頭から順番に撮影します。後から編集してシーンを並べ替えるような操作はありません。ストーリーの進行表に沿って、僕たちはセットのあちこちへ移動し、どんな台詞を言うか、どんな動きをするのかをその場その場で決めながら、撮影を進めました。

 最後はみんなで上映会。感想を言い合いながら楽しく観賞しました。

 僕は出来上がった作品を観ながら、「順撮りって面白いな」と思いました。シーンが変わる度に、その間の、「カット」がかかってホッと一息つく感じや、次のセットへの移動や、どんな台詞を言うか、どう撮るかのちょっとした話し合い、そして撮影を再開する直前の沈黙が、一瞬だけ、ぼんやりと思い出されたからです。それは映像としては記録されなかった時間で、しかし、シーンとシーンが切り替わる間に確実に存在した時間。もし、編集によって、撮影された時系列とはバラバラにシーン同士が繋げられていたら、映像に記録されなかった時間について、これほど意識しなかったと思います。

 僕が今ぼんやりと考えを巡らせているのは、ミシェル・ゴンドリーと「順撮り」についてです。それはゴンドリーが得意とする手法の一つである「コマ撮り」についてでもあり、大げさに書けば、ゴンドリーの作品における「記録されなかった時間」について、でもあります。それについて、これから、書こうと思います。あくまでメモなので、ぼんやり漠然としたものになるかもしれませんが。

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