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244.ペットの思い出

知人が書いた犬にまつわるエッセイを読んで、唐突に母方の祖父母が犬を飼っていたことを思い出した。
ボクサー犬で雄雌一頭ずつ。雄はジョー、雌はミミという名前だった。名前の由来を聞くと、ボクサーという犬種にちなんで、『あしたのジョー』とミミ萩原からそれぞれとったのだと、母が説明してくれた。
大人になってから知ったのだが、ミミ萩原はボクサーではなく、プロレスラーだ。
もう2頭とも死んでしまって、いない。祖父母は一軒家からマンションに引っ越したので、もう犬は飼っていない。

動物はどちらかというと苦手な方だ。父親が犬に指を噛まれて包帯ぐるぐる巻きにして帰ってきたり、友達の家の猫に軽くひっかかれたり、そういうおっかなさのほうがどうしても先に思い起こされてしまう。

小学生の頃、我が家ではハムスターを飼っていた。白とグレーが入り混じった毛並みのジャンガリアンで、名前は「テルオ」といった。もしももうひとり息子がいたら「テルオ」と名付けたかったから、そういう名前にしたと父が言っていた気がする。僕と弟は「テル」と呼んでいた。いや、家族みんな「テル」って呼んでたと思う。
ハムスターを飼いたいと言いだしたのは確か弟で、僕はペットを飼うことに積極的ではなかった。弟や母に比べて、ほとんどテルの世話をしなかったと思う。
夜になるとテルは回し車の中で走った。毎晩ガラガラ……という回し車の音を聞きながら、僕らは眠っていた。
飼いはじめてから何年か経って、テルは死んだ。後ろの右足だけピンと伸ばして、うつ伏せになって死んでいたのをよく覚えている。母も弟も泣いていた。僕も泣いた気がするが、テルが死んでしまった悲しみよりも、「死」を目撃してしまった怖さで泣いたのかもしれないな、と今になると思う。弟と並んで悲しんでやれるほど、テルに思い入れはないんだよな、ということがちょっと後ろめたかった気もする。

それ以降、我が家ではペットを飼っていない。

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