見出し画像

9月1日〜6日 第11巻 『毒』

9月1日

9月のカレンダーを見て3連休が2回あると知る。喜ばしい。

昨日からの寝不足気味なので、映画の日だけど仕事帰りは映画館に寄らず、まっすぐ帰宅。笹先生の『終楽章』を読み終える。これまで架空の世界を詠むことが多かったけれど、今回は父の老い、人生の恩師たちの死に直面した自らのことを中心に詠んでいて、過去作とは質感が違う。

9月2日

喉がイガイガして咳が出る。コロナの後遺症が長引いているのか、ここのところの気候の変化によるものか……。

佐久間宣行のオールナイトニッポン0の品川庄司回をポッドキャストで聴いて面白かった。思ったような売れ方ができず、後輩に追い抜かれた悔しさもあったが、年齢を重ねて、家族ができて私生活は幸せだ。自分は「映画を撮る」、相方は「アイドルと結婚したい!」という、それぞれ芸能界に入るときに抱いていた夢も叶えた。現状には結構満足しているし、相方もきっとそうだろう。そう思っていた品川がテレビで「もう“ゴールデン冠番組をやりたい”みたいな熱はないかも」と話したときに、隣に座っていた庄司がものすごく寂しそうな顔をしていた……、っていう、お笑いコンビの人生ドラマとしてものすごく厚みのある話が繰り広げられていて、面白いだけじゃないいろんな感情が渦巻く回だった。

夜はブルックリンナインナインの最終回を観る。大きな事件ではなく、99分署恒例の争奪戦バトルをクライマックスに持ってきて、明るく朗らかな幕引き。

9月3日

まだ蝉の声が聞こえる。今年のラストシャウトかもしれない。

昼から銀座へ出ていくつかギャラリーを観る。ちょうど読んでいた『ジェンダー写真論 増補版』で紹介されていた作家・田口和奈の展示があったので銀座メゾンエルメスへ。プリントされた写真に絵を描いてまた撮影して、というような複層的な作品と、収集された匿名のファウンドフォトで構成されている。ファウンドフォトは幻想的なイメージや、身体の組み合わせによって別のイメージが構成されているような、こちらも複層性を感じさせるものが多い。作品が額縁に入っておらず、無造作にぺたりと壁に貼ってある感じ、作品外にもう一つのレイヤーを感じられて、少しくらくらする。
資生堂ギャラリーでは第八次椿会の第2シーズンを観る。今回は全体的に暗く、会場にロープが張り巡らされ、あちこちに境界が出来ているのをまたぎながら歩く。壁には夜の川と、その向こうを車が走っている様子が映し出されるが、真っ暗な中を行きかう車のライトしかほぼ見えない。ヘッドホンを付けると川の周辺で鳴く虫の声が聞こえて、そこには蝉はいない。
ポーラミュージアムアネックスでは、野口哲也『this is not a samurai』を観た。日本の鎧をテーマにした彫刻や絵画の展示。憎たらしい顔で喋る甲冑に、悩まされている青年の彫刻が可笑しかった。

三越前に移動。落語と常磐津のコラボ公演『積恋雪関扉”噺”』を観た。コレド室町の中にある橋楽亭という和室のレンタルスペースが会場。若手の演芸イベントをやる会場として、しゃれた立地でいい。公演は歌舞伎の演目をモチーフにした新作落語3本、その間に常磐津が挟まるという形式。ほぼ目の前で聴く常磐津の音圧と迫力がすごい。新作は一本目が「つる」や「道灌」に近い形式で、「積恋雪関扉」のあらすじを聞く→それを他の人に話そうとして失敗するパターン。この形式って本当に使い勝手いいんだな。他の歌舞伎とかを紹介する形でも量産できそう。なんなら落語の人情噺・怪談噺を紹介する、みたいな形でもやれそうである。二本目は幽霊と人間の恋物語を描いた擬古典で、特に人間の男側のキャラ造形が、ちょっと従来の落語の江戸っ子とも違うバランス。古典の語り口がしっかりしている花金さんらしい部分の合間に、いつもと違う花金さんが表出していた。三本目の舞台は現代。ナツノカモさんが書く今の人のセリフ回しは、他の落語家さんのものと比べると、現代劇っぽさを感じる。「秘密」や「結婚」に対する各々の重要度の違いがコミュニケーションの可笑しみを生みつつ、二本目とリンクして爽やかな終幕。
結構楽しかった一方、落語の途中で常磐津チームが出入りしなければいけないのが、ちょっと演出として惜しいなと思った。やはり落語の途中に高座のすぐ横を人が出入りすると集中が途切れるし、せっかく初見の人が多い新作落語なのに「この演目が終盤に入ってきましたよ」というノイズになってしまっている。このあたり、何かスムーズな見せ方があればいいな。

有楽町まで歩き、ヒューマントラストシネマに立ち寄ったら席が空いてたので『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』を観た。囚人たちが演劇のワークショップで『ゴドーを待ちながら』を演じて評判になり、とうとうパリの大劇場にオファーされて、という話。演劇を通して人生を見つめ直し更生していく話かと思ったら…、という意外な展開になって一段と引き込まれる。舞台では多くの人から賞賛され、しかし刑務所に帰ると囚人としてつらい扱いを受けるというギャップへの苛まれ感。最初に思っていた着地と違う方向ながら、ビターだけどじんわり感動してしまった。

帰ったら日付が変わっていた。

9月4日

昨日遅く帰った影響で眠い。もうレイトショーからの遅めの帰宅に耐えられない体になりつつあるのかもしれない。ジュンク堂につくづくの最新号を買いに行って、それ以外は家にいた。『石子と羽男』『初恋の悪魔』の録画を観て、ついでに溜まっていた映画の録画の中から『ゴーストマスター』を観た。青春恋愛映画お決まりの壁ドン・バックハグ・頭ポンポンって男性優位な暴力性が含まれてないか、というのを思いっきり頭や目玉が吹き飛ぶバイオレンス・ゴア描写でやっていた。もちろん映画愛もありながら、映画業界内の搾取構造や、映画に含まれる暴力性にも自覚的ではあるんだ、というバランス。登場人物のカメラ目線描写好きとしてはラストの成海璃子のシーンは「おぉっ!」となった。

明日のアー『カニカマの自己喪失』のアーカイブも観た。この前の通し稽古発表イベントで演じられていた別役実の戯曲のパロディが入り込んでいた。本物と偽物が様々な配合で入り乱れていくカオスさ。牛乳製造者の想いが高校生を見守るコントが好きだった。

9月5日

先週から引き続きの仕事もあったけれど、とりあえずすべて終わらせてさっと定時で帰る。
最近はTポイント目的でマルエツで買い物する日々なのだけど、今日は惣菜コーナーでカキフライを買って帰った。今ならカキフライを買うと、50ポイントもらえるのだ。普段あまり自らカキフライを食べよう、と思わないので、こういうポイントで釣る企画というのは一定の効果があるのだろう。ちょっとマヨネーズを付けて食べた。美味しい。

英語を少しやって、『保健室のアン・ウニョン先生』を読んでから寝る。

9月6日

鬼平を読む。浅草寺でスリを目撃した平蔵。スリの男・伊太郎を捕縛し、掏られた袱紗包みを確かめると、中から30両と共に怪しい薬が出てきた。この薬がどうやら国外から取り寄せられた毒物らしいと判明し、平蔵は袱紗包みの持ち主であった陰陽師・山口天龍を調べ始める、という話。毒物が一体どういう目的で用意されたのか、真相は闇の中という、鬼平では珍しいパターン。どうやら幕府の中で何やら策謀が起こっていたらしい、とだけ仄めかされる。幕府の中枢は平蔵からしてもブラックボックス状態らしく、かなり不気味な後味。

気圧のせいかずっとうっすら頭が痛かった。昼食は近所のカフェでちょっと気になっていたチョップドシーザーサラダを食べたが、あんまり美味しくなかった。

帰りの電車でつくづく最新号を読み終える。企画を考えている脳内をそのまま戯曲的なスタイルで出してしまおう、というコンセプト。インタビューとか対談って発言をそのまま台詞と見做せば戯曲として転用可能なのでは、とぼんやり思っていたので、今回の雑誌内演劇みたいな変なコンセプトもするりと読めてしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?