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(2)一ヶ月では読み切れない

群像は講談社から発売されている月刊の文芸誌で、他社の「文學界」「新潮」「すばる」「文藝」と並んで五大文芸誌と称されることもある。現代の日本文学におけるメジャー雑誌のひとつだ。

群像の特徴は、評論に力を入れている点にある。文芸誌というと小説やエッセイが中心と思いがちだが、群像は評論文に割いている紙幅も多い。公式サイトに掲げられた「「文」×「論」。ジャンルを横断して「現在」にアクセスする」という言葉通り、文学と評論を両輪として多彩な切り口の文章が掲載されている。

群像のもうひとつの特徴は、その分厚さ。試しに書店へ行って、他の雑誌と厚みを見比べてみてほしい。群像より分厚い文芸誌はなかなか見つからないはずだ。

この文章を書いている時点で手元にある群像の最新刊は2023年9月号なのだけど、この号は史上最長のページ数となったらしい。その分厚さ、なんと692ページ! 同じ2023年9月号では、文學界が344ページ、すばる334ページ、新潮304ページ。群像の分厚さは、同時期に出た文芸誌の倍以上だ。一部の連載を除き、ほとんどのページが二段組みなので、とんでもない文字量が一冊の中に詰まっていると分かる。

群像一年分に当選した僕が全号を通読するにあたって、最初の障壁となったのはこの分厚さだった。あまりに厚くて、一ヶ月で読み切れないのだ。

本来、月刊誌だからといって一ヶ月以内に読み切る必要なんてない。気になった記事だけ拾い読みすればいいし、全てを読み切らずに終わったっても構わない。というか、それが雑誌のスタンダードな読み方だろう。
だが、こちとら収録作を全部読むことに決めてしまったのだ。一作品でも読み落とすわけにはいかない。

とりあえず、好きな作家の小説や興味のあるジャンルの記事、ページ数が少なくてすぐに読めそうな随筆・書評あたりから取り掛かっていく。どんどん読み進められるので「通読なんて楽勝じゃん!」という気分だ、この段階では。

当然あとに残るのは、興味がない分野についての文章や、タイトルからして難しそうな評論など。まず着手するまでに躊躇いが生じるし、読んだら読んだで内容がやはり手ごわい。どうしたって読むペースが落ちる。
もちろん、実際に読んでみたら予想以上に面白かったというケースも多い。例えば大澤聡の連載『国家と批評』は当初、その大層なタイトルから読むのに難儀しそうだと判断し、後回しにしていた。だが一度ページを開くと、ぐいぐい惹き込まれた。明治期の旧制第一高等学校に通っている生徒たち(後に日本の批評や文学の礎となる面々が多数含まれる)の学生生活が、大量の参考文献をもとに綿密に活写されていく。インテリ学生たちの活き活きとした蠢きを、俯瞰してつぶさに観察するような筆致が独特で、批評文でありながら青春小説のようでもあり、今では楽しみにしている連載のひとつになった。

そんなこんなで基本は楽しく読んでいるのだが、一ヶ月で読了するには何しろ分量が多い。実は群像1月号が届いた時点では、通読に加えて全収録作の感想をツイートしようと思っていたのだが、最初の一ヶ月の半ばで断念した。読むだけでも大変な時間がかかるのだから、感想をいちいち文章にまとめる余地など無かったのだ。

結局、群像1月号の全作品を読み切ったのが1月21日。自宅に届いてから約一ヶ月半が経過していた。
1月10日には次の2月号も到着していたので、1月10日~21日の間は2冊を同時並行で読んでいた。1月号の中編一挙掲載(木村紅美『夜のだれかの岸辺』)を読み進め、ちょっと小説を読むのに疲れたら、合間に2月号掲載の評論文を挟むといった具合。「文章の味変」だ。

「これ、最後まで続けられるのか……?」
群像一年分の一年は、不安なままスタートを切った。

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