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064.好きな映画を聞かれると悩む件

「好きな映画は?」と聞かれると困ってしまう。「好き」というのが必ずしも共通の尺度によって測られるものではないからだ。ストーリーが面白いから好き、という場合もあれば、あの俳優の演技が素晴らしかったから好きということもあるし、「ストーリーも演技も大したことないが、一か所ものすごく印象的なシーンがある」という理由で好きな場合もある。

しかも、この映画が好きだと特定の作品名を挙げると、「そういう映画が好きな人」という扱いを受けてしまうのが厄介なところだ。
例えば僕は『悪魔のいけにえ』が好きで、リバイバル上映にも足を運んだことがある。レザーフェイスが最初に登場する瞬間の「この世の知られざる恐ろしい側面が突如としてスクリーンに現れた感じ」はこの作品ならではだと思うし、そんな恐ろしい存在だったレザーフェイスが家族団欒の場面になるとおめかししたり祖父に優しかったりする、ユーモラスさにも愛着を感じている。
でも、「好きな映画は?」の問いに、『悪魔のいけにえ』と何の説明もナシに応えてしまうと、「あー、この人はそういうジャンル映画系なホラーが好きなのかな」と思われてしまうことも多い。まぁ、嫌いというほどではないのだが、そのジャンルばかり見ているわけではないから、なんとなく「おそらくちょっと間違った印象を与えてしまっているぞ…」となってしまう。

どの作品の名前を挙げたとしても、自分が抱いているその映画の感想と、相手が抱いているそのイメージに齟齬があるので、大なり小なり誤解は生じ得る。
未だ相手が、自分の挙げた作品を知っていればいいのだが、知らない場合はもっと厄介だ。僕はエミール・クストリッツァ監督の『アンダーグラウンド』という作品も好きなのだが、一般認知度はそれほど高くないと思う(映画好きの人なら、ある程度知っている方も多いはずなのだが)。なので好きな映画に『アンダーグラウンド』を挙げた場合、相手はリアクションに困り、なんなら「それ知らない…」と妙にテンションが下がったりもする。いや、好きな映画を聞いたのはそっちじゃんとも思うのだが、しかしおそらくその質問に対して『アンダーグラウンド』を真っ先に挙げてしまう僕もダメなのだ。

というわけで、「好きな映画は?」という質問は、僕にとって、そして多くの映画好きにもきっと悩みの種なんだろうなと思う。

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