駐(在員)妻の憂鬱


友人は駐妻であった。
フランス語圏の某国である。

人に聞く駐妻話は面白い。
全く知らない世界。
昼ドラ?

まず、旦那さまの年齢や役職によって、駐妻の立ち位置も決まる。
日本での住まいがどこにあるかも詮索される。
お屋敷町だったりすると面倒なことになるそうだ。
松濤や成城に住んでいても、練馬区ですう〜とか言わねばならない。

妻自身の学歴も聞かれる。
彼女はW大卒だったけど、トップに君臨する奥様より偏差値が高い学校だと不興を買うらしい。
それで、「中高は⚪️⚪️女子校附属で。」
と答えておいた。
向こうは勝手に大学もエスカレーター式に⚪️⚪️女子大だと思うだろう、というわけだ。
「嘘はついてないわよ。バレたらコワいし。」
とのこと。

けっこう頻繁に「奥様会」なるものが催される。
一品持ち寄りという形式で。
一品のメニューにも気を使う。
あまりに難度の高いもの、豪華なものは、やはり先輩奥様方には評判が良くない。
先輩を超えるものは全てタブーなのだ。

友人は、ブッシュドノエルなんかも作っちゃうほどお料理もお菓子作りも得意だったが、そんなモン持って行った日にゃ、何を言われ、その後何を要求されるか分かったものじゃないらしい。
それで、ちょっとハズして、「美味しいけど庶民的」なもの、例えばどら焼きなんかを作って持っていくわけだ。

友人は非常に活動的で、海外に行って言葉が分からないからといって、ジッと家に引きこもり、日本人とだけ付き合うような人じゃない。
語学学校に通い、料理学校にも行く。

ある日、旦那さまが出張することになった。
出張先は、彼女も行きたいと思っていた町である。
早速ホテルを予約した。
旦那さまが働いている間は観光し、夜、時間が合えば一緒に食事した。

それが駐妻トップの奥様の知るところとなった。
友人は奥様に呼び出される。
「なんて事をするんです!何かあったらどうするおつもり?」
友人は、何のことかわからずポカーンとしていたらしい。

奥様は焦れて説明する。
「あのね、あなたに何かあったら、それは旦那さま、ひいてはカイシャに迷惑かけることになるのですよ。」

「はあ、今後気をつけます。」
と賢い友人はとりあえず答えておいたそうだ。

「自分の金でホテル取って、勝手に観光してるだけなのに、何が悪いの? そりゃあ私が事故にでも遭えば旦那に迷惑はかかるわよ? でも、私の事故と会社とどう関係があるの? 家の中で転んだって同じことでしょう? 旦那の出張中の行動を邪魔しない限り、私がどこで何しようと他人に関係ないじゃない❗️」

友人はプンプン怒るが、見た目はおっとりしていて言い返したりもしないので、奥様のお小言はそれまで。

その後も友人は、しょっちゅうそうやって旅行していたそうだ。
先輩奥様方は、最後には彼女のことを「いくら言っても道理のわからない若い人」と薄気味悪く思うようになったようで、
「遠巻きにして見守るスタンスに変えたみたいよ。」
と明るい友人であった。








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