深夜の話し合い
「なんで怒ってるの?」
昨晩、寝床で彼に問われた。
話をしなくては。
先延ばしにしたい気持ちを抑えて覚悟を決める。気持ちを伝えるなら今だということなんだろう。深夜2時。それぞれベッドに寝転がって、そのまま話をした。目を見て、向き合って話す勇気はまだ持てなかった。
怒っているわけではないことを最初に伝えた。怒っているのではなくて、ただ、どうしたらいいのか、どう接したらいいかわからなくなっていたと告げる。
態度が不自然だったことも謝罪した。
それから、私の希望を伝える。
以前も何度か話したことだけど、朝起きてカーテンを開けて生活したい。でもそれは彼の生活リズムでは難しいから、別々に暮らしたり、もっと広い部屋に引っ越したり、別れた方がいいのではないかと考えたこと。
彼は「いろいろ試したんだけどね」と言った。
確かに、過去に彼は何度か早起きを試していた。私が不機嫌になって一方的に怒ると、彼は早起きを頑張る。数日間、それは続く。
でも、完全夜型で生きてる彼は当然寝不足になり、体調不良を訴える。そうなると早起きを続けるのは難しくなって、いつの間にか元の生活に戻る。
そういうのがこの2年半の間で数回あった。
いろいろ変えようと彼なりに努力したことは知ってる。
でも、今はそうではないし、今後も難しいのであれば、別々に暮らす方がいい。彼にとってしっくりくる生活リズムと、私にとって心地よいリズムが違うだけ。それぞれが無理することなく生きるには、別の空間で生きるのが今のところベストなのではと思う。
「これからどうしたい?」
「んー………」
彼は言葉を濁した。
話し合いの間、長い沈黙が何度もあった。
結局昨晩、彼の希望を聞くことは叶わなかった。
「明日仕事でしょう?」
そう言って、彼は煙草を吸いにキッチンへと消えた。
彼はいつも希望を言わない。
この関係を続けたいとも、別れたいとも言わない。
それは優しさなのだろうか。私との関係に責任を取りたくないだけなのだろうか。
2年半前、交際を始めたころに同居を提案したのは私だ。
彼はコロナ禍で海外から帰国してホテル暮らしをしていたから、生活が楽になればいいと思ったし、少しでも一緒にいたい。そう思っていた。
夜型の生活をしている彼のことが心配だったのもある。
当時彼が住んでいたホテルは日中は全く日が当たらなくて暗く、私には息苦しい場所だった。
日当たりがいい自分の部屋に住めば、彼の生活も変わるのでは。
そんな幻想を抱き、お節介を焼き。結果として、私にとって、ひょっとしたら彼にとっても、しんどい暮らしを強いることになってしまった。
あの時の私の提案は間違っていたのかもしれない。
でもこの2年半、しあわせな瞬間はたくさんあった。
寒い夜に毎晩毎晩鍋を食べたり、日付が変わる頃に最寄り駅に着く私を毎日迎えに来てくれたり、近くの公園でボールを蹴って遊んだり、私が美味しいと言ったスイーツをあほみたいに大量に買ってきてくれて食べきれずに無駄にしてしまったり。出かけるときはいつも手を繋いで歩く。他愛ない話をたくさんする。
一緒に暮らしたからこそ、得た幸せはたくさんある。
私はやっぱり今でも彼のことが好きだし、彼は私のことを大切にしてくれてるんだと思う。
だけど。
私たちは、真剣な話はほとんどしていない。
これからについて、ちゃんと話をしたことがない。
どう思ってるのか、本音で腹を割って話せたことは一度もない。
今この瞬間、刹那的には楽しい。
一方で、そこに信頼を築けているのかは、私は自信がない。
昨晩の話し合いは保留となったけど、このまま流したくはない。
私は朝起きて気持ち良く一日を始めたい。一日が始まることにわくわくしたい。そういう生活を送るために、解決策を見つけたい。
ちふみ
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