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11月10日は「エレベーターの日」


「1900年代のエレベーター」(アメリカ、1995年発行、出典:「切手の博物館」のSNS)

1. エレベーターの日について

11月10日は「エレベーターの日」として日本で制定されています。この記念日は、1890年(明治23年)11月10日に東京・浅草で日本初の電動式エレベーターが一般公開されたことに由来します。当時、浅草の凌雲閣(りょううんかく)という高層建築に設置されたこのエレベーターは「日本初の電動エレベーター」として話題を呼びました。凌雲閣は「浅草十二階」とも呼ばれ、1889年に完成した高さ52メートル、12階建ての建物で、当時の日本では「摩天楼」と称されるほどの画期的な高層建築でした。エレベーターが導入されたのは、こうした高層建築の移動手段として、また最新技術を体感できるアトラクションとしても意味があったのです。

2. 凌雲閣のエレベーター

凌雲閣のエレベーターは、アメリカのオーチス・エレベーター社(Otis Elevator Company)製で、蒸気機関を利用して動く初期のエレベーターのひとつでした。オーチス社は1853年に創業し、世界初の「安全装置付きエレベーター」を発明したことで知られています。この安全装置は、万一エレベーターが急停止したり落下したりする場合に作動して、かごの落下を防ぐ画期的なものでした。この安全装置の発明によってエレベーターは安全性が高まり、特に高層ビルの建設を可能にする技術として広く普及していきました。

凌雲閣のエレベーターもこの技術に基づいて設置されました。電動式のためボタンひとつで稼働し、当時の人々にとっては未来的で大変珍しいものでした。エレベーターの運行は、ビルの高層階に簡単に移動できるだけでなく、凌雲閣自体が観光の目玉だったことから、多くの人がエレベーター体験を求めて訪れました。しかし、凌雲閣は1923年の関東大震災で大きな被害を受け、その後解体されてしまいました。

3. アメリカの「1900年代のエレベーター」切手について

画像にある切手は、1995年にアメリカで発行された「1900年代のエレベーター」を題材としたものです。この切手には、19世紀末から20世紀初頭にかけて使用されていたエレベーターのデザインが描かれています。デザインには鉄製の装飾が施され、左右に開閉する格子状の扉や繊細な装飾が見られることから、当時のエレベーターがただの移動手段ではなく、建物の美的要素やステータスの一部としても重要視されていたことがわかります。

エレベーターはこの時代、特にアメリカやヨーロッパの都市で急速に普及していきました。高層建築の増加に伴い、安全で快適な垂直移動の手段が求められ、エレベーターはまさにその需要に応えるものでした。アメリカではオーチス社がエレベーター市場のリーダーとなり、ニューヨークなどの大都市にエレベーターを多数設置しました。20世紀初頭のエレベーターは美しい装飾が施され、貴族や上流階級の象徴ともなり、豪華なホテルやオフィスビルに設置されることが多かったのです。

4. 日本最古のエレベーター「東華菜館」について

日本に現存する最古のエレベーターは、京都にある「東華菜館」(とうかさいかん)に設置されています。東華菜館は1912年(明治45年)に建てられた洋館で、京都市の四条大橋のたもとに位置しています。設計は、アメリカ人建築家のウィリアム・メレル・ヴォーリズ(William Merrell Vories)によるもので、西洋風の建築様式と和風の要素が融合した独特の建物です。この建物内に、アメリカ・オーチス社製のエレベーターが設置されており、現在も手動で稼働しています。

東華菜館のエレベーターは、内部に美しい木製の装飾や鏡が取り付けられ、上品でクラシカルな雰囲気が漂っています。乗る際には操作員がレバーを操作して運行する手動式のエレベーターで、現代の全自動エレベーターとは異なり、当時の技術がそのまま残されています。この手動エレベーターは、現在でも実際に稼働している貴重な遺産であり、建物と共に京都の観光名所となっています。来訪者は、当時の雰囲気を体験しながら、歴史的なエレベーターに乗ることができます。

5. オーチス社のエレベーター技術

オーチス社はエレベーター技術の先駆者であり、エレベーターの安全性を劇的に向上させた企業として知られています。1853年、創業者エリシャ・オーチス(Elisha Otis)が初めてエレベーターの安全装置を発表した際、ニューヨークの展示会で公開実演を行い、かごが落下することなく停止することを見せました。この画期的な発明により、安全なエレベーターが実用化され、オーチス社はその後、世界中にエレベーターを供給する企業へと成長しました。

東華菜館のエレベーターは、このオーチス社の製品であり、当時の高度な技術を伝える貴重な存在です。エレベーターの稼働自体が手動であるため、操作員がいないと動かない仕組みで、現代のエレベーターとは違う趣を感じることができます。このエレベーターに乗ると、100年以上前の技術と設計の美しさ、そして当時の生活文化を垣間見ることができるでしょう。

まとめ

「エレベーターの日」は、日本でのエレベーターの普及と技術の進歩を振り返る記念日です。凌雲閣での日本初のエレベーター公開から、現在に至るまでエレベーターは発展を続け、現代社会に不可欠な存在となりました。そして、京都の東華菜館に残る手動エレベーターは、エレベーター技術の歴史と美学を伝える遺産として、現代の私たちに貴重な体験を提供しています。このような歴史を知ることで、日常に使われるエレベーターの裏にある技術や美学の奥深さに気づくきっかけとなるでしょう。

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