私も月に行きたい
毎朝、「おかあさんといっしょ」を幼い息子と見ている。
9月の歌は「にんじんエンジンロケット」
内容は、月に行きたいと願ったうさぎが、にんじんのロケットにまたがって、月に行くという話だ。
4歳の息子はその歌が流れると、テレビに釘付けになって見ている。
息子はこの歌が好きなようだ。
***
朝ごはんを食べていると、テレビから「にんじんエンジンロケット」の歌が流れてきた。
それを見て、息子は私に1つの質問をした。
「お父さん、にんじんエンジンロケットってありえないよね?」
現実的にはありえないが、子供の夢を壊してはいけない。
「そう?にんじんの中にロケットエンジンを入れたら飛ぶんじゃない?」
私は歌にフォローを入れながら答えた。
すると、息子は少しあきれた表情を見せた。
「にんじんが飛ぶわけないでしょ?」
息子の気持ちがよくわからないが、私の答えに納得がいかないようだ。
確かに、彼の言いたいことがわからなくもない。
にんじんに乗って月に行くなんて、ありえない話だ。
それでも、御伽話のように楽しめる話なら、非現実的でもいいじゃないか。
「いや、にんじんを改造したら飛ぶかもしれないよ」
私の答えに、息子はとても不満気だ。
いぶかしがるような目で私を見ている。
「お父さん、にんじんが飛ぶわけないよ。これはね夢なんだよ」
私を諭すように、4歳の息子が語りかけてくる。
確かに、にんじんが飛ぶわけがない。
ここで現実的な息子に同調すべきか、とても判断に迷う。
「いやでも、飛ぶかもしれないよ」
私がそう言うと、息子は首を横に振った。
「お父さん、これは夢だよ」
息子の強い口調に、これ以上夢物語の面白さを語るのは難しいと感じた。
「うーん、そうか。夢かぁ」
私は息子に折れた。
4歳に口論で負けてしまった。
「そうだよ!夢だよ!」
私は息子がこの歌を気に入っていると思っていた。
だけど、息子は「この歌はありえない」という思いで、じっと見ていたのだろう。
親としては、子供にはもう少し夢を見てほしいと思う。
だけど、妙に現実的に育ってしまった息子を見て、私の育て方が正しいのか、不安になる。
そもそも、4歳に口で負かされる大人に、人を育てるのは難しいのかもしれない。
私も「にんじんエンジンロケット」で月に行きたい。