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ショートショートnote杯

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君に贈る火星の

「先輩、帰って来ました」

 ヒカルは私のことを先輩と呼ぶ。私の昔話を聞いて、憧れて、野球部に入ったからだと言う。

「お疲れ様。よく頑張ったね」

「悔しかったあ。八回のチャンスに打てれば、優勝だったのに〜」

「準優勝でもすごいよ」

「来年は優勝します。だから、体を治して、応援に来てくださいね」

「もちろん」

 もう退院できないかもしれないと思っていた。でも、頑張ろう。

「それで、お土

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しゃべるピアノ

「百年たったし、もう、そろそろ、付喪神になってもいいと思うんだけどね」

 アップライトのピアノをそっと撫でた。

 よく触るところは黒の塗装がすり減って、下の木目が見えている。

「洋風の物は付喪神にならないんじゃない」

 そう言ったのは、ペンダントの薫だった。元は祖母の帯留めだった。物持ちのいい家だからか、付喪神は薫だけではなく、他にもいる。

「好きな曲は何か教えてくれたら、弾くのになあ」

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一億円の低カロリー

「ドクター白石が開発したダイエット食。工場建設のための目標額は一億円。クラウドファンディングをご支援くださった方から先に一ヶ月分進呈」

 写真は棒のない綿菓子にしか見えない。

 でも、モニターたちは絶賛していた。

「ほんと、すっごくおいしいの。なめらかで、そう、とろける〜。お腹だけでなく心まで満たされる感じ。霞を食べる仙人になれそう」

 中でも不思議系アイドルの沙良がSNSで取り上げたこと

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