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ミック入来~夢を諦めない男~

※これはライティングスクールの「身近にいる人を取材して、その人を紹介する」という課題で書いた文章です。

 シンガソングライター・ミック入来との出逢いは、川崎の路上だった。約10年前、アンプから流れ出る爆音に合わせて、激しく歌い踊り狂う男がいた。私の目は釘付けになり、そのパフォーマンスが終わるまで、しばらく立ち尽くしてしまった。
 翌日、勤めていた会社の同僚に、興奮しながら川崎でのことを話すと「その人知っています!」とパソコンのキーボードを叩きはじめた。「この人です。中高生向けの番組に出ていた“ミック入来”です。高校生の頃テレビで見ていました」。私は知り合いのツテで彼に連絡を取り、同郷ということもあって仲良くするようになった。
 それから随分と月日が経ったが、改めて彼に話を聞かせてもらった。いつもの通り饒舌に、嬉しそうな笑顔でテーブルの上に身を乗り出してきた――。
 本名は入来信一郎。1957年、北九州市小倉生まれ、現在63歳。高校を卒業後24歳まで大きな工場の下請け溶接工として働く。だが「このままでいいのかな? 俺は歌か芝居がやりたい」という思いが湧き上がってきていた。
 それを後押ししたのが、とある人から言われた「好きなことをやりなさいよ」という言葉と、NHKのど自慢に出場したときに鳴らされた「カン、カーン!」の鐘二つ。そして矢沢永吉さんの著書『成りあがり』の三つだった。
 入来25歳、永ちゃんがそうしたように、地元の小倉を飛び出し横浜に降り立った。中華料理屋でアルバイトをしながら音楽を始めた。バンドを組んだり、ソロ活動をしたりと試行錯誤をしながら、世に出るチャンスを待ち続けていた。
 時は流れ、年齢は43歳になっていた。そんなある日、テレビ番組から突然連絡があり、ジャニーズ所属の有名アイドルに会った。すると入来の風貌を見て「ミックだ!」と叫んだのだ。
ミック・ジャガーを連想したのだろう。オンエアされたVTRを見ると、それまで本名の入来信一郎で活動していた自分の映像に「ミック入来」とテロップがあった。
 そこからミック入来が始まった。番組内の企画で、数名のアーティストとCDを製作することになった。その日は興奮が冷めず、ロケがおこなわれた代々木から自宅のある恵比寿まで歩いて帰った。
 CDは10万枚売れ、手元には150万円という大金が振り込まれた。その事実が、世の中の人に自分の音楽を聴いてもらえたという実感になり、これが『成りあがり』なのか?と期待した。
 テレビの視聴率は20%を超え、CD発売記念ツアーでは名古屋、金沢、横浜を回った。しかし納得がいかないことがあった。売上最高ランキングは11位とベスト10には及ばず。さらにオムニバス製作だったため、紹介記事に自分の名前が載っていなかったのだ。結局本当の『成りあがり』にはなれなかった。
 あれから20年。現在のミック入来は、どこで何をしているかというと、今でも自分の歌を世に出すべく、楽曲製作の傍ら芝居にも挑戦している。ひと言ふた言、セリフのある役をもらえたら嬉しい。
「絶対に諦めない、必ず成功する!どんなに時間がかかっても」――それが彼の生き方なのだ。

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