レース、刺繍、素敵なもの

クローゼットを開けて、まず目に入るのは白だ。白いブラウスが好きで、それも、レースのついているものが好きなので、だから次に入るのはレースだ。その次は、スカート。くるぶしより、すこし上くらいの長さが好きだ。ブラウスが白が多いので、スカートはカラフルだ。淡いパステルカラーの緑のチュールスカート、黒いレースのスカート、ストライプ柄の水色のスカート、紺色の滑らかな手触りのスカート、デニム素材のフリルのように布の重なったスカート、また水色の、ハイウエストの食器のような柄のスカート。ワンピースも数着。赤いレースのものと、グレーのレースのものと、水色のセーラー襟のものと、花の刺繍の入ったもの。他にも、たくさん。クローゼットの上段には、着物と帯も仕舞ってある。

装う事が好きになったのは、大学生になった頃だった。大学在学中、私は一人暮らしをしていた。自分で、自分の服を買う、そういう事をしだしたのもその頃だ。最初に買ったのは通学に使いたかったトートバッグと、それからTシャツ。今は、部屋着にしているけれど、群青色のTシャツがお気に入りだった。制服が無くなったから、毎日服を選んで着替えて、とするのが楽しかった。

小さい頃、私は親に買い与えられるままにスカートやワンピースを着ていた。ズボンを履くようになったのは、多分お気に入りのワンピースを着ていた時に同じクラスの男の子にスカートめくりをされてからだ。ズボンを履くようになって、少年漫画を読むようになって、母には「我が家には立派な男の子がいる」と言われるような子供だった。中学にあがって、久しぶりに制服でスカートを履いた。中学は、制服が二種類あって、正式な制服――黒のスカートに白い、落ち着いた襟のシャツだった――と、水色のシャツにチェックのスカート、その二種類で、ベストも黒と水色があった。ローファーには校章がついていて、コートも可愛い指定のものが選べた。制服は、スカートを折る事もせずに着ていた。短いスカートよりも、翻るようなスカートがずっと好きだった。

そんな風に、ずっとスカートを履いていて、その上で綺麗なスカートが好きだったので、自然Tシャツよりも襟のあるような服を好むようになった。気に入っているのは、ノースリーブのレースのブラウスと、ネクタイやサスペンダーの絵柄のある「うそつき」なシャツ、胸の部分にたくさんレースのついたブラウスや、片側にだけレースのラインの入ったブラウス、水色のリボンをつけられるポロシャツ。全部、白い色のものだ。白いブラウスと、長いスカートを履いて、私は歩く。春は、とびきりに散歩が楽しい。白い靴を履いて、スカートの裾を蹴る自分の足を見るために、下を向いて歩いてしまう。冬も、ブーツを履いて歩けるから好きだ。スカートから覗くクラシックなデザインのブーツは、かくべつに可愛く見える。

レースが好きになったのは、着物を嗜むようになってからだった。たまたま見つけた、グレーの、レースの着物に一目ぼれをして、揃いの襦袢と一緒に買って帰った。どきどきしながら着てみると、自分の姿が随分好きになった。今でも私の一番のお気に入りの着物だ。着物も色々増えて、エメラルドグリーンのドレスのようなものや、銀の刺繍の入った夏用の一着、ぱっきりとした色合いだと黒と赤のストライプのものも持っている。白に青い柄の入った、大島紬も、とうとう買ってしまった。それから、祖母からのおさがりの着物たち。青と、オレンジと、ピンクの、花柄の着物だ。全部、私に似合う色合いで、もっと早くに着るようになって、祖母に見てほしかったとよく思う。

着物に関して、私は帯を巻くのが好きなので、帯もお気に入りばかりでクローゼットを埋めている。コスメ柄、水色のレース、青のレース、ピンク色の夏用のもの、クジラ柄。半幅帯が好きで、沢山集めてしまっている。他には、七宝柄の名古屋帯や、薔薇の袋帯、袋帯は他にも、黒に花柄のものや、雪輪にきらきらとした刺繍の入ったものも、持っている。道楽趣味としか言いようがないのだけれど、着物は着るだけでなんだか弾むように嬉しくなってしまう。襟が綺麗に着れた時や、帯の、お太鼓が上手くいった時なんかは、あまりの嬉しさに何枚も写真を撮ってしまう。

レースの着物の小物だと、半衿と、冬用の足袋、羽織も持っている。半衿は、ピンクにちいさなストーンのついたものだ。他には、靴柄の半衿なども気に入っている。レースの足袋はファスナー式なので着脱が楽だし、とても暖かい。羽織は古着で購入したもので、柔らかいクリーム色だ。どれも、可愛い。

自分が砂糖やスパイスや素敵なもの、で出来ているとは思っていないけれど、私のクローゼットは、きっとそういうもので出来ている。私のクローゼットって何で出来てるの?レースと、刺繍と、素敵なもの。そんな風に。
今朝も、仕事に行くために私はクローゼットを開いて、服を選んで、着替えている。ブラウスと、スカート。素敵なものに包まれて、私は一日を始めるために。

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