トラブルなトラベル

 19世紀ヴィクトリア朝のイギリス人女性にとって海外の植民地帝国がいかなる存在であったかをまとめた井野瀬久美惠氏の著作の中で、世界の各地を旅した「レディ・トラベラー」について述べた章に次のような一節がある。

 彼女たちの旅は、周遊[一巡して戻ってくる]を意味するツアー(tour)ではなく、トラブル(travail)と語源を同じくするトラベル(travel)、つまりさまざまな苦労がともなわねばならなかったのである。

                            井野瀬久美惠『女たちの大英帝国』(講談社、1998)


 少し調べてみると、英語のtrouble(困難・難儀・迷惑・困惑)とフランス語のtravail(苦しみ・苦役・苦難)は同じラテン語からきていて、“トラベル” travelという単語はそれらを語源としているのだという。

 仕事上の旅でのトラブルはごめんだが、実は旅そのものが本来はトラブルを内包しているものなのかもしれない。自分の旅を振り返ってみると、いろんなトラブルがじっさいにあったし今となってはそれが良い想い出であることに間違いはない。そうした記憶、体験を思い出してみるのも面白いかもしれない。