一寸先は

 たとえば、の話。歯科医に言われるがまま実験椅子のようなものに座り、口をあんぐりと開いたならば中略やがて無防備の口腔内にドリルを突っ込まれるのであるが、その歯科医師がある方向に気まぐれを起こしたと仮定すると、その先に大惨事もしくは命を落とすという事態が待っていることは十分にありうる。と、考えると大体の大人の感覚が麻痺しており、治療に際し泣きわめく子どものほうが正常ではあると思う。

 別に歯医者に限らない。どんな人間も存外、人間のことを信用しているのか、自分の運命を過信しているというか、油断しているというか。

  たまに、クルマを運転しているとき、スピードに乗った対向車が気まぐれにハンドルをこちらに傾けたら私は瞬く間に死ぬかもしれないのだ、と夢想するが今のところは無事に行き交っている。考えていては身がもたないがしかし、首の皮一枚、である。

 

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