薄暮れの 白く輝く 月が、丸い

その日の午後はとても暑かった。暑かったという事が、それと関係しているかは分からないが、午後の陽射しの強さが、あの月の輝きを増していたといわれれば信じてしまいそうではある。

十八時も過ぎ、夕暮れに入ろうかなという気配の坂に足をかけ見上げると、今日はやけに輪郭のはっきりとした月が、いまだ昼の明るさを残す空に銀食器よりも白く美しく佇んでいた。

夜空の月より、真昼の月より、いつもの頼りなさや危うさがまるでなかったかのような、かといって輝きすぎもせず斑らに体を凛と晒して、なんというか高貴な居住まいに、ほんの少々立ちどまる。この瞬間を共有できる人がいないけれど、そんなことはお構いなしに月はひとりで美しくそこにいた。

夕飯の献立を考えても、それを実際に作っても、眠って起きて、時間が経っても、美しく気高かった彼は私の頭にあんなにはっきりと浮かんだままでいる。ただそれだけの話。たったそれだけの話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?