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届くか届かないか


『あなたは知らないけど
わたしは知っているのよ』

『あなたは気づいていないけれど
わたしは気づいているのよ』


たとえ口に出さなくても
こういう意識を心の中に少しでも持っていたら、もうその相手には何も届かない気がする。

『どうして、わかってもらえないのだろう』
と、ずいぶん悩んだけれど
きっとわたしが相手を自分の思い通りにしようとしているから、
伝わらないのだろう。


わたしが、打たないで、と言ったひとは
結局みんな打った。

打たなかった人は、
何も言わなくても最初から打たない。



わたしが感じることとあなたが感じることは、違っていてあたりまえだし、
そしてそれはどちらも正しい。

『わたしが正しいときは、相手もまた正しい』

を、また胸に刻む。

せめて、
自分のことを自分で選ぶことができるという自由だけは、守られますように。


『人間関係がすっかり変わってしまった』
とよく聞く。
わたしも、今までこんなにも人と分かり合えないことってあっただろうかと思う。


でも当然

打つけど、好きな人
打たないけど、好きじゃない人

の両方がいて、人間関係を
「打つ打たない」だけではまったく分けられない。


もともと友だち少ないしね。


久しぶりに出会った友人が、
ずいぶんと不健康そうだった。


たしか前に会った11月頃には

「副反応でヒドイ目に遭ったから、
もう3回目はぜったいに打たない。」

と言っていて、でもそのすぐ後で
中1の息子の接種予約を済ませたと言うから、なんで?と言った気がする。


彼女とは、子ども同士が上も下も
同い年で、息子が3歳の頃までは
すぐ隣に住んでいて、知り合った。

だから彼女は、うちの子どもたちが
まったく予防接種を受けないことも、
熱が出たくらいではまず病院に行かないことも、
薬を極力飲まないこともよく知っていて、
わたしをずっと「変人」だと思っている。
おかげでわたしも隠さず「変人」のままでいられる。

彼女は、彼女の息子がまだ小さい頃に
脳に腫瘍のようながあるかも?と
言われたせいなのか、
(誤診だったことがだいぶ
後で分かるのだけれど)
とにかくちょっとしたことでも
すぐに病院に行くし、安心のために
いつもいろんな薬を飲んでいた。


彼女は子どもにきびしかった。
でもそれは子ども同士が
一緒に遊んでいる中で、
自分の子どもだけをキツく叱るような
いびつなきびしさで、
そういう時わたしも同じように
自分の子を叱らないと
いけないような気にさせられるのが
苦手だった。

でもふだんの彼女は優しくいい人だったし
お互いはじめての育児で
右往左往していたことは同じで

まだ幼かった子ども同士が
一緒に遊ぶときは
そばに付き添いながら
その時期をよく一緒に過ごした。


子どもが大きくなってからはもう
母同士で出かけるほどの仲でもなくなっていたけど、でもたまに会うと
たくさん世間話をした。


病気や健康への考え方の違いは変わらず、
むしろ歳を重ねるにつれてますます
離れていくようだった。

彼女はわたしより、6つ下なのだけれど
先週、髪が薄くなっていた。

「大きなシミができちゃって」と
言われて見てみれば眉間の真ん中に
左右の眉毛をつなぐほどの大きなシミができていた。
そして、2ヶ月前に飼い猫が突然死したのだ、と言った。まだ7歳なのに。

それから、生理痛がひどい話。
健診でメタボの一歩手前、と言われた話。「命の母」を飲んでいる話。。。

体調の話ばっかりだ。
めちゃくちゃ健康に気遣っているのに
どんどん、不健康になっていく彼女に
わたしは何か言うのをためらった。


今までに
「解熱剤は要らない話」は何度もした。
わたしにとっても
「インフルエンザのワクチンなんて意味がない」なんて面と向かって
遠慮なく言える相手は彼女くらいだった。


「わたし、ぜんぜん生理痛ないねん」

と言ったらビックリしていた。

「っていうか、最近生理もなくなってきたんやけど〜」

とつづけて、ふたりで笑った。

彼女がもし打ってなかったら、
オットが黙って接種した翌日に
わたしが不正出血した話をしただろうな。


その時、わたしたちが立ち話をしていたのは、彼女の家のすぐ隣の小さな空き地。娘同士がそこで遊んでいた。


娘たちの通う小学校ではまた
3学期の参観日も遠足も、中止になった。

4年生の3学期の参観日は体育館で
「1/2成人式」をやるのが恒例だったから
残念だね、と言い合った。


その立ち話の間もずっと彼女は、
屋外なのに不織布のマスクをしたままで取らなかった。
娘たちも、マスク。わたしは素顔。


たまに通りかかるご近所の方もみな、マスク。
公園帰りなのだろうか、サッカーボールを持ったお父さんと小さな男の子もマスク。



なんだかもう打つ手がないなぁ。


それでもやっぱり、
聞かれなくても
「娘にはぜったいに打たない」って
言っとこ。





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