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ブルー・ジーンズ・ブルース。

普段、ぼくはジーンズを履いている。

たまにがんばってチノパンを履いてみたり、なんと呼ぶのかわからない薄手のチノパン的なパンツを履いたりすることはあっても、基本的にジーンズを履いて暮らしている。ライターという、それで許される職業についているのだからまあ、悪いことじゃないだろう。

そのためわが家には、けっこうたくさんのジーンズがあふれている。大掃除のたびに処分したりはするけれど、捨てる数より購入する数のほうが勝っているのだろう、気づくとぐんぐんジーンズが増える。きのうもネット注文していたリーバイスのジーンズが2本、届いたところだ。マニアやコレクターではまったくないし、ユニクロの無変哲なジーンズを履くことだってあるけれど、現在所有しているジーンズはおそらく数十本になるだろう。趣味らしい趣味もなく、飲み歩くことも少ない中年として、ジーンズとスニーカーと鞄を頻繁に買い換えることくらいは、自分に許してあげたいせめてもの気晴らしだ。


とはいえ、ここで困った問題が発生する。

たとえば1週間のうち、3本のジーンズを履き替えるとしよう。きのう履いていたジーンズを脇によけ、きょうはあたらしいジーンズを履く。その作業自体はまったくかまわないというか、むしろうれしかったりするものだ。週に3本といわず、こころのなかのちいさな流行、つまりマイブームさえなければ毎日あたらしいジーンズに履き替えたいくらいである。

しかし、そうやってあたらしいジーンズに履き替える際、きのうのジーンズに通してあったベルトをするする引き抜き、きょうのジーンズにちまちまと通しなおさねばならない。この作業がもう、ほんとうに面倒くさくてたまらないのである。それをやるのが億劫すぎてきのうのジーンズを履いてしまうほど、ぼくにとっては苦行なのだ。

結果、ぼくはジーンズと同じ数だけベルトを購入し、すべてのジーンズをベルトが通った状態で脱ぎ散らかしている。そのぶん、高級なベルトを何十本と購入するのはさすがにこころと財布がしくしくするので、何十本ものユニクロ無変哲ベルトを通して生きている。


ああ、せめて数本の高級ベルトを、毎日あたらしいジーンズに使い回せる男になりたい。その手間を惜しまず、むしろたのしめる男になりたい。

けれどももし、そんな日が訪れたとしたら、ぼくはいまほどジーンズを履かなくなっているのだろう。ぼくがジーンズを愛好する理由の7割以上は、「ほかを考えるのが面倒くさいから」なのだから。