わたしと彼の編集作業。
午後、カッキー(柿内芳文氏)から電話があった。
昨夜のうちに送っていた原稿(途中まで)、その感想を伝える電話である。開口一番、彼は言った。
「これ、この章だけで1冊の本として売り出せますね!」
「ていうか、この章だけで3000円の値段つけられますよ!」
「いや、ぼくだったら100万円でも買いますね!」
「もう、○○○(海外の超名著)を超えましたよ、これは!」
「まさか○○○を超えてくるとは!」
「だって、まさにこれじゃないですか、△△の核心は!」
「って、読んだ直後なんでこんな感想しか出ませんけど!」
「すごいです、これは!」
そこから彼は、あらためて「この原稿のなにがすごいのか」を語りはじめる。まるで自分が書いたかのように、と言ったら語弊があるか、まるでぼくがそれを読んだことがない読者であるかのように「この原稿のすばらしさ」を饒舌に語る。聴いているうちにぼくも「そうそう、けっきょく○○なんだよね」などと相づちを打つ。「だからほんとはさ、こんなふうにしなきゃいけないんだよ」などと。
あれこれしゃべっているうちに、「あ、いまカッキーにしゃべったこと、原稿にも書いておいたほうがいいかも」と思わされる。「いまの話、原稿にも書いとくね」と伝え、電話を切る。
なにかを指示されるわけでもなく、ただ興奮している彼の「解説」や「おれの理解」を聴いているうちに、追加で書くべきことが浮かんでくる。
だいたいそんな感じで、カッキーとの共同作業は続いていく。彼がほかの書き手さんを相手にどうしているのかは知らない。少なくともぼくは、ほかの編集者さんとこのようなやりとりはしない。たぶんぼくらふたりでしか成立しない、奇妙な共同作業だ。
そしていま、ぼくは「あいつをもっとびっくりさせてやろう」と、次の章を書きはじめている。