もうちょっとだけ、太ももに力を込めて。
たとえば駅のホーム。あるいはそこへ通じる階段。
ふつうの歩速で歩いていて、なにげなくお年寄りを追い越す。こちらが急いでいるわけでもなく、向こうが慎重に歩いているわけでもなく、ただ歩速や歩幅の違いから追い越してしまう。「まったく遅いなあ」「電車、乗り遅れちゃうよ」。そんなことを思い、若いころは歩いていた。
それが、いつごろからか最近。気がつくと横を、若い人が追い越していく。大股で歩く兄ちゃんだけではなく、スーツ姿の小柄な女性も、ぼくをするり追い越していく。「あれ? いま追い越されたよね?」。自分が特段ゆっくり歩いている自覚はない。スマホを見ながら歩いていたわけでもない。もともと歩幅が小さいほうだとは思っていたものの、体力を誇りのひとつとしてきた人生だけに、「そういうことなのかあ」と軽いショックを受けている。
ぼくは今年、50歳になる。
老け込む年齢ではまったくないとは思いながらも、もはや「ふつうの歩速」や「ふつうの歩幅」で歩いてちゃダメなんだろうなあ、と思うのだ。これは道を歩くときの話としてではなく、仕事に臨むときの話として。
若い人の話題についていけないとか、あたらしいテクノロジーについていけないとかはどうでもいいんだけど、同じ方向に歩くときにはせめて、同じ速度で横に並んで歩きたいよねえ、それにはちょっとだけ、太ももに力を込めなきゃいけないんだよねえ、と。
まあ、なにか具体的に仕事の場面で「ふつうに歩いていたら追い越された」があったわけでもないんだけど、追い越された道や駅の映像をしっかり憶えておきたいと思い、きょうはこんな話を書きました。