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視線ではなく、視点を変える

「もうちょっと別の角度から考えてみたまえ」

企画を考えているとき、原稿を書きあぐねているとき、あるいは人生に迷ったとき。たびたび出くわすアドバイスです。ぼくもライター講座的なものでこの言葉を使うこと、よくあります。

でも、ここでいう「別の角度」にはちょっとした但し書きが必要です。

たとえば、「お月さまについて、なにかおもしろいエッセイでも書きたまえ」と無茶振りされたとしましょう。困ったぼくは外に出て、夜空を見上げ、お月さまを眺めます。ああ、きれいだなあ。神秘的だなあ。なんの熱も持たないまま、ほの暗いあかりでぼくらを包み込んでくれてるなあ。みたいなことを思ったあたりで、ぶんぶんかぶりを振るでしょう。「いくらお月さまだからって、こんな月並みな発想じゃ駄洒落にもならん。別の角度から考えるのだ」。そして月夜の「美しさ」ではなく、「怖さ」を考えてみる。

……これって「視線」を変えているだけなんですよね。自分という人間はそこに立ったまま、見る方向だけを変えている。始点の場所は動いていないわけです。

これに対して、ほんとうの意味での「別の角度」ってのは、おのれの立つ場所ごと変えたものの見方なんだと思います。

要するに、地上で夜空を見上げていた自分をぐーーんと移動させ、たとえば宇宙飛行士のどんぐりまなこで月を見る。自分の「視線」を変えるんじゃなくって、「視点」そのものを変えてしまう。そこでようやく、あたらしいお月さまが見えてくる。

こうやって「視点」を変えること、わたしのいる場所を瞬間移動させること。それを想像力と呼ぶのではないか。そんなふうに思っています。

いまの自分が変えているのは「視線」なのか、それとも「視点」なのか。つねに意識しておきたいものです。