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その頭を、どこにのせるか。

犬はしばしば、人の膝に顎をのせてくる。

愛情、愛着、信頼、さらには心頼(こころだより)。さまざまな心情を感じさせるそのさまは、ぽかぽかした温もりもあいまって、ひどくいじらしい。おれのことをそんなにも、とあらぬ父性をくすぐられる。



しかし、よく考えてみると犬は、人の膝にかぎらず、あらゆるところに顎をのせている。

顎をのせたい生きものなのだ、犬は。


それではなぜ、そんなにも顎をのせたいのか。ひと言でいえば、頭が重たいからである。犬も猫も牛も馬も羊もみな、四足歩行する動物は、地面と水平に背骨が伸びている。その水平に伸びた棒の先に、重たい頭が装着されている。

釣竿で考えると、その異常さがわかるだろう。釣竿の先に、頭蓋骨をぶら下げる。当然その竿は、地面に向かってぐにゃりと曲がるだろう。そうしてしまうと動物たちはいつもうつむいて気分がくさくさするし、なんといっても外敵の発見に遅れてしまう。そこで首の筋肉を鍛え、つねに一定の緊張を保ち、頭を持ち上げ続けているのが、四本足の生きものだ。

よって四足歩行の生きものがこれ以上脳をおおきくする(頭蓋骨をおおきくする)ことは不可能で、もしも頭蓋骨をおおきくしたいなら、直立させた背骨の上に頭蓋骨を置くしかない。つまり、直立二足歩行を選ぶしかない。

なんて雑学はともかく、犬が顎をのせて休むのは、別に人間への特別な愛情を示しているわけではなく、休憩しているだけなのだ。


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近ごろずっと首の痛みに悩まされているのだけど、ぼくのような猫背の人間は背骨の上に頭蓋骨をのせることがかなわず、犬猫のように頭蓋骨がぶら下がりつつある状態なのだろう。だから首や背中を痛めるのだろう。

猫背の矯正もいいけれど、仕事机に「あごのせクッション」的ななにかがあればいいような気もしてきたぼくは、まさしくダメ人間である。

頭を背骨のてっぺんにのせてこそ、人間なのだ。