見出し画像

あそこのお店の看板メニュー

むかし、サイゼリアの正垣泰彦会長に取材させていただいたことがあります。

きっと、世間的なサイゼリアのイメージは、「激安イタリアンのファミリーレストラン」なのでしょうし、それはひとつも間違っていません。ミラノドリア299円、ペペロンチーノ299円、マルゲリータ399円、そしてグラスワイン100円。メニューを開くと、冗談みたいな価格が並んでいます。

では、サイゼリアにとっての看板メニューとはなんなのか。正垣会長の答えはかなり意外なものでした。

サイゼリアでいちばん人気のある商品は、ピザでもパスタでもなければ、ハンバーグでもない。そんなものは「どの商品が売れたか」の指標に過ぎず、そこを見ていては、いつしかレストランとしての姿勢がブレてしまう。

サイゼリア最大の人気商品は、白米である。

なぜなら、われわれが考えるべきは、「実際にお客さんの口に入った量」なのだ。いかにイタリアンを提供するレストランとはいえ、大半のお客さんはセットでライスを注文する。ハンバーグとライスを一緒に食べる。どんなにおいしいハンバーグでも、毎日食べることはできない。けれども、おいしい白米は、毎日どころか毎食だって食べることができる。

だからサイゼリアでは、契約農家と協力し、田植えから収穫までを一括管理した上でお米をつくっている。精米も自社でおこない、「お米は、精米から何時間後に炊くといちばんおいしく炊きあがるのか?」というデータも出して、その時間にあわせて炊飯するシステムもつくっている。

要は「おかず」には流行があるけど、「ごはん」にはそれがない。ほんとうのリピーターを呼び、お店を育てるのは、いつだって「ごはん」の魅力なのだ。……そうおっしゃるわけです。


びっくり感化されたぼくは、自分の仕事にとっての「ごはん」と「おかず」を考えました。つまり、コンテンツ制作における「ごはん」と「おかず」を考えてみたわけです。

おそらく、周囲の人たちがほめてくれるものは、いつだって舌がびっくりするような「おかず」でしょう。斬新な企画だったり、いかにもキレキレな分析だったり、突拍子もないアイデアだったり。そして実際、あたらしい「おかず」をつくるのは楽しい作業です。

でも、ライターの本分は「おいしいごはん」なんですよね。

おいしいごはんがあれば、「おかず」なんてふりかけでも漬物でも、なんなら塩でも十分です。そして、「この店のごはんはおいしいね」とほめられようとせず、むしろ「おかずがおいしいから、ごはんを何杯もおかわりしちゃう」と思ってもらえるようなお米を炊くこと。それがライターの仕事じゃないかと思っています。

はてしなきごはん道。こっちのほうが長く続けられそうでもありますしね。