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来年のおれと誰か。

あんまりよろしくない傾向だ。

なにかを書こうとすれば、ついつい仕事の話になってしまう。ほかに考えていることだってあるだろうに、文字にしようとすると仕事のことしか浮かばない。集中できているというよりも、あたまがカチカチに固まっている状態に近い。本づくりの最終局面ではいつもこんな感じになるとはいえ、今回はかなり重傷である。

この本——『ライターの教科書』的なもの——を書き終えたあと、そしてこの本が無事刊行されたあと、たとえば来年、なにをするのかひとつも決めていない。しばらく休みをとりたい気もするし、本づくりにかぎらず、まったくあたらしいジャンルに踏み出してみたい気もしている。社員を増やしたいとか、そのためにはもう少し広いオフィスに越したいとかも、思っている。

仕事柄、「これからどんな人の本をつくっていきたいですか?」と質問を受けることがある。最低でも3人、「あの人の本をつくってみたい」を即答できる自分でいようと、いつも思っている(実際いまも4人、あるいは5人の「あの人」がぼくにはいる)。

けれども過去の経験上、そうやって願い続けた「あの人」や「このテーマ」の本がうまくいくことは、あまりない——『嫌われる勇気』は例外にもほどがあるほどの例外だ。

それよりも、直前までまったく頭になかったのに、降って湧いたように生まれた企画、つまり偶然に「出会ってしまった人」とつくる本のほうが、自分もおもしろいし、結果的にいい本になっている気がする。


なのでまあ、来年もぼくは誰かと出会うのだろう。出会いに向けた準備をいま、無意識のうちに進めているのだろう。ぼくと出会う相手もまた、偶然の出会いに向けて今日を過ごしているのだろう。たのしみに待っていてくれ、どこかの誰かさん!

そんな将来の偶然を考えていると、重苦しい今日の一日が少しだけ軽くなるのだ。