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ふたたび「売れること」について。

何年も前に、とある上場企業の創業オーナーから伺った話。

彼は言った。「売れていないのなら、儲かっていないのなら、それは『社会に貢献できてない』ということだよ。そういう会社は潰れてしまったほうがよっぽど社会貢献だよね」。飄々とした、冗談交じりのような口調だったが、それはかなりの本気を含んだ発言だった。

そして何年か前に、バラエティ番組に出演中の芸人さんが断言した話。

彼は言った。「売れるってのは、要するに『バカに見つかる』ということなんです」。椅子からひっくり返りそうになるほど的を得た表現に、ただただおどろいた。


本というコンテンツにおいては、長らく「売れないけれども、いい本」に過大な価値が置かれていたように思う。出版文化、ということばがあるように、売ることよりも「出すこと」、そして「残すこと」にこそ価値がある、との言説が必要以上に幅を利かせていたように思う。「バカには見つけられない本」への誇りが強すぎたように思う。

売れることは「バカに見つかる」こと、と喝破した芸人さんも、だから売れないままでいるほうが尊い、と言っているわけではない。芸能でも、音楽でも、あるいは本や映画でも、アンダーグラウンドな場所に居座り続けることによって確保できる自由は、いくつもあるだろう。

しかし、ポピュラリティを獲得することによって手に入る自由は、もっとおおきいのだ。アンダーグラウンドでせっせと守っている自由は、とんでもなく狭い場所での、限られた自由なのだ。


そのときどきであたまに渦巻くキーワードがころころ変わるのですが、最近はどうも「売れる」ということばが気になっているようです。