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苦手なほうへ

ライターをやってると、はじめての編集者さんから「得意分野はなんですか?」と訊かれることがあります。

「そっすねー」なんて、その場でテキトーなことを答えることも多い、この質問。ほんとうのところは「ありません」だし、「ぜんぶ苦手です」になるよなあ、と思うのです。むしろぼくの場合、得意分野をつくらないように心掛け、得意分野を深掘りしないようにブレーキをかけたりしているといってもいいかもしれません。

得意分野を持って、その見晴らしのよいフィールドのなかで仕事をしているかぎり、自分の予想を超えた結果って出にくいんですよね。最初につくった設計図のとおりに物事を進めて、どうやっても設計図からはみ出してくれない。自分を超えてくれない。

なので、伸び悩みを自覚している編集者さんやライターさんに相談を受けたとき、ぼくはかならず「苦手分野に踏み出しましょうよ」と話しています。ガッチガチの文科系だったら、数学や会計の本をつくってみる。ロジカルシンキング一辺倒の理科系だったら、思いっきり情緒的な小説やエッセイをつくってみる。

恥を覚悟で苦手なフィールドに踏み出したとき、特典としてついてくるのは「読者の目」です。その分野の素人は、どこに疑問を持つのか。そもそもなにがわかっていて、なにがわかっていないのか。どこから説明してほしいと思っているのか。自分自身がド素人であれば、このへんもぜんぶわかりますよね。

一方、得意分野でうろうろしていると、いつのまにか読者を置き去りにして、好きなひとにしかわからないことばや文脈で議論を進めてしまいます。企画が大化けする可能性は、かなり低いでしょう。

いま、ぼくが取り組もうとしている起業、チームワークやリーダーシップ、あるいはビジネスモデル構築とかの話は、自分にとってかなり苦手な分野だという自覚があります。ほんと、謙遜でもなんでもなく、ちょー苦手です。

でも、苦手だからこそ「将来ぜったい起業するぜいっ!」なお兄ちゃんたちとは違ったチームがつくれるんじゃないのかな、とこれからの毎日を楽しみにしているのも事実です。

えーと、はい。会社設立から一週間という話を書こうとして、けっきょく本の話になりました。