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ビル・ゲイツと石油王。

大金持ちの代名詞、について考える。

九十年代後半からしばらく、大金持ちの代名詞といえばビル・ゲイツだった。人はなにかと「あー、ビル・ゲイツが5億円くらいくれねぇかなあ。5億円なんて、あの人からしたら痛くも痒くもないはずだよ」なんてことを口走っていた。けれどもビル・ゲイツがビジネスの表舞台から去り、2018年のいま、大金持ちの代名詞として彼の名前を挙げる人は少なくなった。

そんなビジネスの潮流とは無縁に、しぶとく君臨している架空の大金持ちが、「アラブの石油王」である。これはきわめてあいまいなことばで、たとえば「アラブ」とはどこを指しているのか。アラビア半島なのか、中東全域なのか、アラブ首長国連邦やサウジアラビアなどの国を指しているのか、いまいち判然としない。そして「石油王」にしても、それは「自動車王・フォード」や「メディア王・マードック」みたいな修辞としての王なのか、あるいはほんとうの王族なのか、判然としない。そうしたよくわからない架空の大金持ちとして、夢の国の住人として「アラブの石油王」は存在し、語られる。

ここでおもしろいなあ、と思うのは、たとえば2000年代以降の、全盛期のスティーブ・ジョブズを「大金持ちの代名詞」として扱う風潮がなかったところだ。もちろん純資産ではずっとビル・ゲイツのほうが上だったという事実もあるだろうけれど、そんなまっとうなファクトが理由だとは思えない。

おそらく人が「大金持ち」として語り、「おれにも5億くらいくれよ」なんて冗談を言う相手とは、「なんか不当なやりかたで大金をせしめたっぽいやつ」なのだと思う。あこがれではない、ねたみの対象として君臨するから、そんな揶揄を受けるのだと。


『ミライの授業』をつくるとき、資料としてビル・ゲイツに関する本をたくさん読んだのだけど、知れば知るほどおもしろい、尊敬すべき人物に思えた。とくに彼が1995年に執筆した『ビル・ゲイツ 未来を語る』という絶版本は、ぜひとも復刊してほしい名著だ。ここで語られている内容は、2018年のいまでもまだ「未来」だったりする。

ということは。

正体不明な「アラブの石油王」も、実際に会ってみたらおもしろいんだろうなあ。ドバイの皇太子さんのインスタとか、おもしろいですものね。