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そこでなにを育てるか。

読み返すことがあったときのために、いちおう書いておく。

きょうはWBCの決勝だった。日本対アメリカで、午前8時から(実際には8時20分過ぎから)試合がはじまった。数日前に乗ったタクシーで、運転手さんがしきりに大谷選手とヌートバー選手の話をしていた。試合の結末、そして最終イニングについては、もう書かない。忘れるはずがないからだ。

試合後のインタビューや記者会見で、たくさんの選手・監督・コーチ陣が同じ話をしていた。「これをきっかけに野球少年が増えてくれれば」だ。それは半年近く前に、ワールドカップを終えたサッカー日本代表の選手たちも言っていたことだ。「これをきっかけにサッカー少年が増えてくれれば」。

よくよく考えてみれば、現役の選手にとって「野球・サッカー少年が増えること」はわかりやすいメリットのある話ではない。「WBCが終わっても、球場に足を運んでください!」とか「ワールドカップが終わっても、Jリーグを観に来てください!」のほうが実利につながる話だ。

けれども彼らは(ペナントレースやJリーグへの関心を呼びかけながらも)野球少年やサッカー少年の増加を訴える。

ひとつに「そこが自分自身の出発点だった」という思いがあるのだろう。つまり、自分も子どものころにワールドカップを観て、サッカーをはじめた。あんな選手になりたい、あのユニフォームを着る自分になりたいと思った。だからいま、子どもたちにも同じ思いを抱いてほしい。きみもそうなれるのだから。といった思いはあるだろう。WBCにしても、現在20代の選手たちは「ぼくも子どものころ、WBCでイチローさんを観て……」みたいな話をしている。それだけの歴史は、もう生まれつつある。

もうひとつに「だって、おもしろかっただろ?」の自信があるのではないかと思う。国の威信を賭けて臨む、国民的なプレッシャーを背負って臨む、これ以上ないほどの真剣勝負。ほんとの真剣勝負って、こんなにヒリヒリするものなんだぜ。こんなにおもしろいものなんだぜ。だから、ペナントレースもJリーグもいいけど、まずはこのおれたちの真剣勝負を観てくれよ。そして野球の、サッカーの、とんでもないおもしろさを知ってくれよ。知ればもう、やめられなくなるはずだから。……そういう、「だって、やってるおれたちが最高におもしろいんだもん。観てる人たちもおもしろいに決まってんじゃん」的な確信があるのではないかと思うのだ。


いやー。真剣ってほんとにおもしろいよなあ。そして真剣は、状況がつくるものじゃなくって、自分たち自身で育てていくものなんだよなあ。今回の日本代表チームはダルビッシュ選手の初日合流からはじまり、みんなで真剣を育てていったすばらしい実例だと思いました。いいよ、真剣。やるよ、おれも真剣に。