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残る言葉と残らない言葉。

あの人のことを思い出した。

以前、ある芸能人の方の、語り下ろし本をつくったときのこと。もう他界されたその方は、関西出身だった。都合4〜5回ほどインタビューしたと思うのだけど、3回目くらいのインタビューで彼は、「若いころの笑福亭仁鶴さんがどんだけおもろかったか」を猛然と語りはじめた。仁鶴さんが『ヤングおー!おー!』の司会をされていたころの話である。

「はぁ〜。いまで言うと○○○○(芸人名)さんみたいな感じですかね?」

ぼくの相づちに彼はぶんぶん首を振り、「○○○○さんには悪いけど、あんなもんじゃない」と切り捨て、また「仁鶴さんがどんだけおもろかったか」の話を続ける。


誰かのことをほめること。あこがれを語ること。自分の「好き」をことばにすること。これってほんとに大事なことだよなあ、と思う。

ライターという職業柄、これまでたくさんの方々に取材してきた。取材のなかでは当然「あいつ、ほんとはこんなにイヤなやつなんだよ」みたいな話を聴く機会だって出てくる。悪口、陰口、誹謗に中傷。そりゃあたくさん耳にする。おもしろく聴くことだって、もちろんある。

でも、意外とそういう話って憶えていないものだ。いつまでも忘れないのはやはり「あの人はすごかったよー」や「ほんとにカッコよかったんだから」や「しびれまくったね」の話である。

そっちのほうが純粋で、本気のことばだからなんだろうなー。

今後、若い人からは望まれない「おれが若かったころ」の話をしちゃう機会があるならせめて、当時あこがれていた人、夢中になっていたものについて語る自分でありたいよ。