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来週のいまごろにはもう。

ぼくが子どものころ、週刊少年ジャンプは火曜日発売だった。

ところが国鉄(!)のキオスクに行くと、月曜日の夕方には買うことができた。いわゆる「早売り」というやつである。キオスクで買う月曜日のジャンプには、得意な気持ち半分と、なにかズルいことをしているようなうしろめたさ半分の、複雑な思いがついてまわった。だから、よほど気になってしょうがない週以外は、つとめて火曜に買うようにしていた。

そもそも本とは、「発売日」の定義がむずかしい商品である。

たとえば来週刊行される『さみしい夜にはペンを持て』という本について、ぼくは「7月18日発売」であるとアナウンスしている。実際Amazonの購入ページを見ても、その日付が書いてある。

しかし厳密に言うとこれは、「配本日」にあたる日付だ。配本日とは、出版社から流通会社(一般に「取次」と呼ばれる会社)に搬入される日のことであり、「この日から流通されますよ」くらいの日である。なので実際の店頭に並ぶのは配本日の翌々日くらいだったりするし、九州・沖縄や北海道あたりの地域では、もう少し時間がかかったりもする。

一方、都心の大型書店さんでは配本日の夕方には店頭に並ぶこともしばしばなので、「配本日=発売日」だとアナウンスするのも、あながち間違いだとは言えない。というか、出版社がみずからの責任においてその日付をコントロールできるのは配本日までなので、そこをいちおうの発売日(発行日)とするのは当たり前のことだともいえる。


というわけで「この日から店頭に並びます!」と断言することはできないのだけれど、まあ来週だ。来週のどこかの段階で、この本が店頭に並ぶ。

来週のいまごろ、つまりは7月21日の金曜日あたりにはもう、読んでくださった方々の感想まで届きはじめるのかもしれない。そのとき自分がどんな気持ちになるのか、いまはまったく想像することができない。もっと正直な話をすると店頭に「これ」が並んでいる姿さえ、いまはまだ想像がつかない。何年やってるんだ、何冊書いてるんだ、いい加減に慣れろ。と、自分でもそう思うのだけれど、こればっかりは慣れない。ほんとうに「これ」が本屋さんに並ぶの? 全国の、あの本屋さんやあの本屋さんに? と思ってしまう自分が、いまだにいる。

どこの誰が、この本を手に取ってくれるのだろう。どんな人のどんなおうちに、この本は居場所を見つけるのだろう。来週のいまごろの自分は、それをどう受け止めるのだろう。

いまはまだ、なにも想像することができない。