その名刺、返してくれ。
これは、むかし書いた話だっけ。
ちょっとしたパーティーの席で、とある芸能人の方と名刺交換をさせていただいた。その方は事務所とは別の個人用の名刺をお持ちで、パーティーに集うメディア関係者たちと積極的に名刺交換をされていた。ぼくが友人の編集者と雑談していたところ、その方がみえて名刺交換することになった。「いやいや、どうぞよろしくおねがいします」なんて笑顔で名刺を交換したあと、その方の表情が曇った。
「はっ? フリーライター? いやいや、名刺返してください」
冗談だと思ったぼくは、わはははは、と笑ったのだけどマジだった。ほんとうに名刺を取り上げられた。「どこになに書かれるか、わかったもんじゃないですからね」。奪いとった名刺を片手に、その方はスタスタ立ち去っていった。
もう10年以上も前の話であり、テレビタレントとしてのその方のことは、当時もいまも大好きだ。このような場で、お名前を明らかにするつもりはない。大人げない態度だとは思うけど、そんな予防線を張らざるをえない状況があったのだろう。
ただ、なんていうのかなあ。
どこかでテキトーな仕事をしたフリーライターが、
どこかで不誠実な仕事をしたフリーライターが、
どこかで舐めくさった仕事をしたフリーライターが、
本来なんの関係もない下の世代(当時のぼく、これからの誰か)の立場を弱いものにしていく。そういう無自覚なまま引きずられていく不毛な連鎖は、どうしたものかなあ、と思うんですね。
あんまり詳しくないままに言うと、たぶんいまだと「ブロガー」って肩書きはそうしたネガティブな連鎖に入っちゃってるんじゃないかなあ。誠実で、いいものを書かれているブロガーさんも、たくさんいるんですけどね。
まあ、ぼくは今後もずっとライターを続けるつもりなので、少なくとも下の世代に迷惑をかけるような仕事はしたくないなあと思うわけです。