バトンをつなごう。
突然ではございますが本日2015年1月5日、株式会社バトンズを設立しました。出版社でもなく、編集プロダクションでもない、書くことに特化したライターズ・カンパニーです。
創業メンバーとなってくれたのは、その誠実なお人柄と、静かな熱を宿らせたお仕事ぶりに長年尊敬の念を抱いてきた大越裕さん。そして不敵な大物感とたしかなスキル、健全な向上心を持ち合わせた田中裕子さん。人的な面では、これ以上ない最高のメンバーとともに船出できることになりました。
batons にとっての中核事業は、書籍のライティングです。そして雑誌の特集企画ならともかく、書籍のライティングは原則として分業することができません。しかも batons メンバーは3人とも、フリーランスとしてそれなりに忙しく働いてきたライターばかりで、わざわざ会社にするメリットは少なく思えます。
それでも会社をつくろうと決意した理由は、たぶん3つに分けられます。
クオリティ・コントロール
モチベーションの維持、仕事量のペース配分、締切の管理、あるいは怪我や病気などアクシデント時の対応などなど。ひとり(フリーランス)ではむずかしかったこれら諸々のクオリティ・コントロールも、近くに仲間がいて、互いに声を掛け合い、随意に飲みかつ食らうなどしていけば、きっとうまくいくと思っています。
ぼくの考える優秀な編集者の定義は「いちばん近くに寄り添う、赤の他人」なのですが、もっと近くに寄り添う仲間を持とうよ、ということかもしれません。
技術の共有と継承
有能なライターほどフリーランスの道を選び、ひとりで生きていく。これはこれで大いにけっこうなことですし、ぼく自身、長年ひとりで仕事をしてきました。フリーランスだからこそ生まれる覚悟、ひとりだからこそ取り組める課題、みたいなものはいろいろあるでしょう。
しかし、ブラックボックス化の避けられないフリーランスの仕事では、せっかくそのひとが積み上げてきた知見が、次の世代に共有・継承されることのないまま、いわば一代限りの「秘伝」になってしまいます。これはあまりにももったいない話です。
そこで会社という「場」をつくり、ひとつの原稿ができあがっていくプロセスをみんなで共有することで、なんだかよくわからない「秘伝のたれ」を再現可能な「レシピ」に置き換える。ゆくゆくは、次の世代のライターを育てていく。年齢やキャリアに関係なく、互いに学びあえる環境を整えていく。そんなことができたらいいな、と思っています。
ライターの価値を高めていくこと
いつも冗談のように(けれども半ば本気で)話す例を挙げると、日本の政治を変えるいちばん手っ取り早い方法って、すべての国会議員にスピーチライターをつけることだと思うんです。とびっきり優秀なライターたちを、公設秘書みたいに国費を使ってもいいから、国会議員みんなにつけちゃう。そして政治に「ことば」を取り戻す。これって政策以前の、いちばん簡単な政治改革だと思います。
もちろん、ぼく自身が政治家のスピーチライターになりたいか、その役割を果たせるのか、と問われればそれはまた別の話です。でも、政治家にかぎらず、企業の経営者でも、大学の先生でも、プロスポーツ選手でも、もう少し世のなか全体がライターという「機能」をうまく使えるようになったらいいのにな、という思いは強くあります。本の出版だけじゃなく、コピーライティングだけでもなく、それこそスピーチの原稿なんかまで。
そのへん、ライターという仕事に対する認識を少しずつ変えていくこと、ぜんぜんあたらしいビジネスのありかたを模索していくことも、非属人的な組織だからこそ取り組める課題じゃないかと思っているところです。
ともあれ、われわれ batons は、読者につなぐバトンと、次世代のライターにつなぐバトンのふたつを手に(それで複数形なんですよ)、船出することになりました。
よろしくおもしろがってやってくださいませ。