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むかしながらの洋食の、その魅力。

おいしいナポリタンをつくる。

こう書くと、案外にたくさんの人が「いいなあ」「おいしいナポリタンは、ほんとにおいしいよなあ」と思ってくれるのではなかろうか。うん、おいしいナポリタンはとってもおいしいものだし、使うバターやケチャップの銘柄によっては贅沢な料理とも言えるくらいだ。

けれどもよく知られているように、ナポリタンはちっともナポリ発祥の料理ではなく、戦後にどこかの洋食屋さんがはじめた料理である。また、なにかの本で読んだのだけど、ニューヨークに渡ったイタリア系移民が、故郷の味を懐かしんで(アメリカの商品である)ケチャップを用い、トマトソースもどきのスパゲティをつくったことが、そもそもの発祥なのだという説もあるらしい。

そうしてイタリア料理ブーム(いわゆるイタ飯ブーム)に湧いたバブルの時代、ナポリタンはインチキで貧しい軽食メニューとして、やや蔑まれていたように記憶している。ぼくも「ナポリタンなんてイタリア人はだれも食べない」と知らされたときのショックは、とてもよく憶えている。すげえだまされた気がした。

さてさて、時は流れて令和の現在。ナポリタンを前に「そんなの本場のイタリアではだれも食べない」なんて野暮なことを言う人は、ずいぶん少なくなった。むしろ「そういうメイド・イン・ジャパンな洋食」を大事にしたり、誇りにしているような雰囲気が、どこかある。オムライスとか、エビフライとか、カニクリームコロッケとか、グラタンとか。


これらの古色蒼然たる洋食の魅力は、どこにあるのだろうか。

当然のように「おいしい」はある。「手軽」もきっとあるだろう。さほどの手間を要さず、家庭の冷蔵庫にある食材でできるものがほとんどだ。ただ、意外と見過ごされがちな共通項を挙げるなら、「かわいい」と思うのだ、これら洋食は。

こんもり盛られたナポリタン。ラグビーボールみたいな黄色に、赤いケチャップのかけられたオムライス。俵のようなカニクリームコロッケ。洋食屋さんのメニューに並ぶ料理は、そのどれもが絵としてかわいい。そして見た目のかわいさがあるからこそ、子どもたちにも愛される。

そりゃあナポリタンなんて亜流といえば亜流だし、B級グルメと言ってもおかしくないし、本物が食べられなかった貧しい時代の料理とも言える。でも、そこに「かわいさ」を見出したり、「どうせなら徹底的に高級な食材でこれをつくってやれ!」とまがいものの超進化を志向したりする近年の風潮は、とてもいい成熟のありかただと思う。

いや、このあいだ超豪華な食材でボロネーゼをつくってみたら、とてもいい感じにできたんですよ。それでせっかくなら今度、超豪華なナポリタンもつくってみたいなあと思った、なぜならナポリタンはかわいいから、という、それだけの話です。