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夏の途中の雑感として。

青い空 セミの雷鳴 入道の雲。

いまオフィスの窓に映るものをことばにしたら、完全な真夏の句になった。セミが苦手なぼくは、セミの外見や手に持ったときにブブブブブブッと抵抗するバイブレーションも苦手なのだけれど、じつはあの声も得意じゃない。セミの命は短い、という先入観があるせいなのか、どうもセミの声は気忙しいというか、生き急いでいる感がある。残りの燃料などおかまいなしに、ガンガン燃焼しまくっている感がある。結果、それを聞くこちらもよくわからん焦燥感に駆られ、のんびりすることがかなわない。人間と同じくらいのサイズに巨大化したアブラゼミが、あの声でビービー鳴きながらこちらに歩み寄ってくるホラー映画があったら、どんなゾンビやハエ人間よりも怖いだろうなあ。


■ 無頼へのあこがれ。

かつて健全な男の子であったぼくは、世のなかのさまざまな「無頼」にあこがれてきた。くわえ煙草のしかめっ面で麻雀するような、ウィスキーの壜をラッパ飲みするような、無精な髭を伸ばしまくるような、それでいてなぜだか女の子にはちゃんとモテているような、そんな無頼だ。で、いい大人になって自己破壊的な無頼へのあこがれもひと段落した昨今、いまだに「あれは少し、うらやましいなあ」と思う無頼がある。どこでなにと衝突したのか、べっこべこにへこみまくったクルマを、なんら気にすることなくそのまま運転している人たちである。おれはできないんだよなあ、修理しちゃうんだよなあ、机の上は散らかり放題なのに、そういうところはルーズにできないんだよなあ、と少しあこがれてしまうのだ。ダメージジーンズを履くのは、ぜんぜん無頼じゃないし、あこがれもしないんだけどね。


■ 第四次万年筆ブーム到来。

最近また、自分のなかで万年筆ブームが到来している。最初にラミーのサファリにはまった第一次、いわゆる高級万年筆を買い集めた第二次、そしてパイロットのキャップレスに出会った第三次。それぞれにブームがあったのだけど、第四次である現在は(パイロットのキャップレスのまま)、ペン先の太さが中字に変わった。細かい文字を書くのには向いていないけれど、ちょっと筆ペン的な味わいもあり、ひと文字のなかに水彩画っぽい濃淡も生まれ、サインペンのようにさらさら書けて、最近かなり愛用している。今後サインなど書く機会があったら、これを使おう。


■ もうすぐ終わる。

ずっとずっと書き続けてきた本の原稿、いよいよあと数日のうちに脱稿となる。来週からは推敲に入り、そののち「はじめに」と「おわりに」を書いていく予定だ。少なく見積もっても500ページを超えるのは確実な本、こんなのいったい誰が読むのだろうかと思わないでもないけれど、この暑苦しい夏が終わるころには、ぼくの手を離れていくだろう。タイトル、ブックデザイン、図版やイラスト、そしてプロモーションの準備など、やるべき編集作業は山ほど残っている。