見出し画像

ソングライターのちから

ひとりで仕事をしているとき、ぼくはそれなりの大音量で音楽をかけていることが多い気がします。

集中できないでしょ、といわれることもありますが、そこはまさしくバックグラウンド・ミュージック。ほんとうに原稿に集中すると、音楽がぜんぜん聞こえなくなりますし、いつの間にかアルバムぜんぶ終わって、無音のまま何時間も書いていたりします。その意味でBGMは、自分の集中度を測る目安にもなっているのです。

それでこの週末、なかなか原稿に集中できない状態で iTunes をシャッフル再生していたところ、不意にローリング・ストーンズ 1994年のシングル曲『Love Is Strong』が流れてきました。これ、楽曲として大好きなのはもちろん、とくに PV はストーンズのなかでも最高傑作といえる出来映えなんですよね。

デヴィッド・フィンチャーによる、全編モノクロのスタイリッシュな映像。当時のストーンズにとって5年ぶりとなる新曲ということで「眠れるロックの巨人、遂に始動!」がびんびんに伝わる巨神兵的演出もすばらしいのですが、とにかくキース・リチャーズのアクションがおもしろすぎるのです。

キース・リチャーズというひとのおもしろさを、どう表現すればいいのか。これはぼくにとって、長年の課題でした。思わず「カッコイイ!」と言ってしまいそうな自分もいるし、たしかにカッコイイんです。とうぜん好きなんです、とても。でも、カッコイイのひと言ではまとめたくない。特に90年代以降のキースに漂う「キース人形」っぽいおかしみを、なんとかことばにしたい。

けっきょく、ベストアンサーを教えてくれたのは、ポップス界の大奇人エルトン・ジョンでした。ダイアナ元妃が不幸な事故で亡くなった、97年のことです。

エルトン・ジョンによる追悼歌『キャンドル・イン・ザ・ウィンド』が世界的な大ヒットを記録していた当時。ある英メディアのインタビューに応じたキースが、エルトン・ジョンのことを「死んだブロンド女のことばかり歌いやがって」と罵ったんですね。ダイアナ元妃はもちろん、もともと『キャンドル〜』はマリリン・モンローに捧げた70年代の歌なので。この発言を聞いたエルトン・ジョンは、なんと反撃したか。

「この関節炎を患った猿め」

ひっくり返りましたね、ぼくは。年々様式化し、抽象化しつつあったキースの容姿とギター・アクションを、これほどまでに毒と愛に満ちた簡潔なユーモアで表現できるとは。以来、ぼくがキース・リチャーズのことをますます好きになり、エルトン・ジョン再評価の気運がぐんぐん高まったことはいうまでもありません。

ただ、こういう発言を聞いてあらためて思うのが、ソングライターという職業の凄みです。

ジョン・レノンからノエル・ギャラガーまで、すぐれたソングライターのインタビューや発言録は、いつ読んでも抜群におもしろい。これはパーソナリティの問題というよりも、ずっと「歌」を書き続けているひとだからこそのおもしろさじゃないかと思うのです。

つまり、コンパクトで的確で、音やリズムが心地よい、詩的なひろがりやおかしみをもったことばを探し続けてるひとだからこそ、インタビューもおもしろいんじゃないかと。そうじゃないと「関節炎を患った猿」は出てきませんって。

結論。原稿に行き詰まったら、口をぱくぱく音読しましょうね、です。音とリズム、大事ですよ。