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鍋という名の状況料理。

このところ、週に2度ほど鍋を食べている。

準備は簡単だし、野菜もとれるし、あたたまるし、なによりうまい。いっそのこと、毎日鍋でもいいくらいだ。——と、人はなぜか少しでもうまいものを見つけると「毎日これでもいいくらいだ」とか言いたがるものだけれど、別に毎日食べなくてもよろしい。せっかくうまいものを見つけたのだから、自分を飽きさせない工夫のほうが大切である。

そういうニーズを察してか、この数年はさまざまなメーカーから「鍋つゆ」が発売されている。鍋つゆと言っても、ちゃんこ鍋とかキムチ鍋とか、もつ鍋用のスープとか、あの名店の味をご家庭で路線の品だけではなく、むしろお店ではなかなか食べることのできない味つけの、やや風変わりなスープが並んでいる。

たとえば数年前、ぼくは「塩レモン鍋」なる鍋にはまった。最近あまり店頭で見かけないものの、いまでもこれは大好きな鍋だ。


そして今年、(個人的な)大ブームの予感がむんむんに高まっている鍋が、モランボンの「完熟濃厚トマト鍋」である。これはうまい。まじで、相当にうまい。

トマト鍋というと、なんとなくケチャップ感の漂う、お子さま仕立てな鍋が多い。ところがこちらの完熟濃厚トマト鍋、完全に大人向けというか、トマトのうまみとハーブ(バジルとオレガノ)の香りがとろとろに溶け合った、完全なイタリア料理である。ケチャップ感がまるでない。

じゃあスープパスタのソースみたいな感じなのかというとそれも少し違っていて、ちゃんと鍋感があるというか、だしが効いている。使用するのは鶏肉とソーセージ。書きながら思いついたけれども厚切りのベーコンを入れてもうまかろう。キャベツや茄子、トマトなどの野菜と煮込んでいくと、スープはぐんぐんうまくなっていく。粉チーズなんか振って食べた日にゃあ、もうめろめろだ。もちろん締めはリゾット、あるいはスパゲティである。食べたいぞ。今晩にだってまた、食べたいぞ。

さて。こうしてあからさまにイタリアンな鍋を食べ、赤ワインなどを飲んでいると、当然思う。はたしてこれは鍋なのかと、ぼくだって思う。鍋というよりむしろ、魚介を使わないブイヤベースと呼ぶべき料理じゃないのか、みたいなことを、考える。


でもまあ、これも含めて鍋なのだ。

塩味のちゃんこ鍋。醤油味のもつ鍋。味噌を溶いた石狩鍋。スープに味をつけないしゃぶしゃぶ。キムチたっぷりのキムチ鍋。考えてみればこれら料理は、具材も味つけもぜんぜん違っている。かろうじて挙げられる共通点は、「煮え立つ鍋を、囲んで食べる」という状況に過ぎない。ならば、イタリアンなトマト味であろうが、ソーセージが入っていようが、締めにパスタを入れようが、煮え立つ鍋を囲んで食べているかぎりにおいて、それは鍋料理なのである。

ちなみにモランボンでは「バターチキンカレー鍋」なる鍋つゆも販売していて、一瞬「そ、それは……」とひるむのだけど、ひるんではいけない。これもまた鍋なのだ。