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成長とは、マイルールの獲得なのか。

どうしてこうなっちゃったんだろう。

教えたおぼえもないのにいつの間にか、彼はそうしている。彼がそうするから、合わせてこちらもそれを尊重している。もしかしたら彼のほうも、同じことを思っているのかもしれない。いつの間にかこんなルールができちゃったけれど、なんでだろ? と不思議に思っているのかもしれない。

わが家の犬のことである。


いつのころからか犬が、ごはんを食べ終わった合図として器をくわえて持ってくるようになった。「わあ、ありがと。えらいねー」なんてほめて、ひと粒のドッグフードと交換する。ひと粒ほしさにやっていることは間違いないけれど、いつからはじまった儀式なのか、よく憶えていない。「おかわり」と言っているのだろうか。



いつのころからか犬が、へんな寝方をするようになった。へびのように長いその寝姿を、ぼくは「へびーぺだる」と名づけた。どう見ても腰が痛そうな姿勢なのに、本人はぶうぶう気持ちよさそうに寝息を立てている。「痛くないの?」と訊いてもずっと、寝息を立てている。




いつのころからか犬が、この姿勢でしか歯みがきに応じてくれなくなった。まるで子どものようであるが彼は立派なおとなである。しかも以前は、普通の姿勢で歯みがきをさせていたのである。「歯、みがくよー」とぼくが床に座りこむと、とぼとぼ観念したようにこちらに歩み寄ってくる。当然、終了後にはひと粒のドッグフードが待っている。




いつのころからか犬が、夜に眠るタイミングを指示してくるようになった。深夜の眠気がピークを迎えると、それまで寝ていたソファからむくり起き上がり、こちらをじっと凝視する。無視してスマホや読書をしていると、自分のハウスに移動してそこからじっと凝視する。「おれはもう寝るから、お前も寝室に行ってくれ」の合図である。この人はなぜか、ひとり勝手にハウスで寝ることをよしとしない。こちらが寝室に移動してようやく、ハウスですやすや眠りに就く。



ほかにも数えればキリがないのだけれど、ちびちびの赤ちゃんだった犬は、よくわからない個性や習慣、マイルールを身につけたぺだるへと、日々成長している。

黒かった鼻も、気づけば赤くなったもんなあ。