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「おれごときが」の呪縛を超えて。

高校生のころ、ローリング・ストーンズが初来日を果たした。

もしかするとまだ「BIG EGG」の呼び名が残っていたかもしれない東京ドームでの、10DAYS公演である。高校当時にいちばん仲のよかったサッカー部の友だちが、どうにかしてこれに参加しようと画策していた。学校を休んで東京に行くことについては、親を説き伏せたという。交通費や宿泊費、チケット代を含めて出してもらえることになったという。ただし、そこにはひとつだけ条件があった。(サッカー部の)監督さんには、自分の口から伝えること。うそをつかず、正直にローリング・ストーンズのコンサートに行くから部活を休ませてほしいと伝えること。……けっきょく彼は、この最後の条件をクリアすることができず、上京を断念することになった。

その一部始終を見守り、全面的に応援しながらぼくは、ただただすげえなあ、と思っていた。それを認めた親御さんもすごいと思ったけれど、それ以上に「ストーンズのコンサートに行く」と決めた彼をすごいと思ったのだ。

ぼくだって当時からローリング・ストーンズは好きだった。ほとんどのアルバムは持っていたし、じゅうぶんなファンのつもりでいた。しかしながらコンサートに出掛けることは(たとえ金銭的な条件をクリアできたとしても)ためらわれた。「おれごときが」の心が働くのである。コンサートとは筋金入りのファンが集う場所であって、おれごときのファン歴しか持たない人間が出掛けるべきではない。それはアーティストやそのファンを愚弄する行為だ。なんてことを思っていたのだ。

そうした「おれごときが」マインドは大学に入ってからも消えず、学業そっちのけのアルバイト生活によって高校時代からは考えられないほどの金銭的余裕を得ながらぼくは、20歳くらいになるまでコンサートと名のつくものに足を運んだことがなかった。

で、当時ある女の子に「そんなに音楽が好きなのに、なんでライブ行かないの?」と問われ、上記のぐるぐるした思いを吐露したところ「はー? ばっかじゃない?」と鼻で笑われてしまった。

以降、憑きものが落ちたようにコンサート通いをはじめるようになり、あのころのおれはほんとのほんとにばかだったなあ、と思うに至ったのである。


プリンスの評伝『プリンス Forever In My Life』(東洋館出版)の刊行記念イベント、『唯一無二のイノベーター・プリンスの革新性』の収録が終わった。それこそ筋金入りのファンであるみなさまを前にして、おれごときがなにを語ればいいのだろう。収録前のそんな不安は、スタートと同時に消えてしまった。おれごときにさえ、こんなにも語りたいプリンスがいる。それを実感できた約2時間だった。自分たちの「好き」を語り合うって、最高にぜいたくでほんとうにおもしろい時間だ。

このイベントを企画し、入念な準備をしてくださった二重作拓也さん、東洋館出版の上原剛典さん、そして当日スタジオまで駆けつけ、ともに最高の場をつくってくださったみなさま。ほんとうにどうもありがとうございました。こちらの模様は、9/22にYouTube公開されるそうです。