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ドストエフスキーは、こう言った。

治安の悪い漫画が増えているなあ、と思う。

あきらかな転機となったのは『闇金ウシジマくん』で、あの漫画から一気に治安の悪い作品が増えてきた。もちろんそれまでにも極道やヤンキーの暴力的な漫画はたくさんあったのだけど、これらの作品は一般人を巻き込むことは基本的にせず、極道同士、またヤンキー同士の抗争をデフォルメして描くのが常だった。だからこそ読者は、遠いどこかのフィクションとして、その漫画をたのしんでいた。一方で最近の治安の悪い漫画はリアリティを売りにしており、たとえば抗争の果てにナントカ埠頭の倉庫が大爆発、みたいな描写はほとんどなく、むしろ一般人を社会的・精神的・肉体的にじわじわ追い込んでいく、陰湿で陰惨な暴力を描くことが多い。暴力的、というより「治安が悪い」のだ。

そういう漫画が増えている(人気を博している)ということは、実際に治安が悪くなっているのだろう。しばしば「凶悪犯罪や少年犯罪の数は、むしろ減っている」と言われるけれど、検挙に至らないレベルでの治安が、悪くなっているのだろう。そして治安の悪化にはやはり、経済が関係しているのだろう。

じゃあ、経済が上向いていけば最終的に、治安のよい漫画が増えていくのだろうか。

そこは経済だけの話じゃない気がする。いまの漫画の治安が悪いのは、経済的な薄暗さを踏まえながらも、やはりリアリティを求めた結果であって、都合のよいハッピーエンド自体、「嘘っぽい」ものとして忌避されるのがいまの時代じゃないかと思うからだ。


「ほんとうの真実ってやつは、いつでも真実らしくないものだ。真実をより真実らしく見せるためには、ほんのちょっとだけ嘘を混ぜる必要がある」と、ドストエフスキーは言った。

なんだかこの数年「考え込む漫画」ばかりを読んでいるような気がして、それはそれでおもしろいし漫画の進化だと思うんだけど、頭をからっぽにしてゲラゲラ笑う漫画も読みたいなあ、探していかなきゃなあ、と思ったんですよね。嘘だらけの漫画をさ。