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「面倒くさい」ではなく「めんどい」。

めんどい。

「面倒くさい」と発話することさえ面倒くさくなってしまった人が、白旗をあげるように発話することば、すなわち「めんどい」。たしかに普段、「面倒くせえなあ」とか発話するときにも、音としては「めんどくせえなあ」と「う」を省略して言うことがほとんどで、ルビを振るような丁寧さをもって「めんどうくせえなあ」と発音するのは、いかにも面倒くさいものである。そんな「めんどくさい」をさらに略化したぐうたらなことばが「めんどい」なのだろう。

と思って辞典を調べたところ、どうやら「めんどい」は西日本一帯で使われる方言をルーツに持つことばらしい(日本方言大辞典)。東日本の人よりも西日本の人のほうがせっかちなのか。あるいは「面倒」に「くさい」をかぶせるあたり、東日本の人はしつこく仰々しいのか。

で、どうしてそんなことを調べているかというと、来週銀行に出かける用事ができたのだ。銀行から、とある手続きのお願いメールが届き、オンラインバンキング画面に行ってもその手続きの詳細がわからず、コールセンターに電話したら「それについては店舗に電話してくれ」とかわされ、店舗に電話したら「それについては直接来店して手続きをとってくれ」と返され、「なお、来店にあたってはホームページの『来店予約』コーナーで空いてる日時を確認・予約したうえで来店してくれ」と付け加えられ、どうにもこうにも「めんどい」と思い、口にしてしまったのである。

しかしながら「めんどい」と口にした瞬間、これは「めんどくせえ」よりもずっといいことばだと思った。

不快な出来事に遭遇したとき「めんどくせえなあ」と言えばそれは、おのずと「ふざけんなよ」的な悪態に近づく。ちょっと攻撃的な、他責のニュアンスが混じる。けれど、「めんどいなあ」を口にしてもそれは、「ふざけんなよ」の悪態よりも「とほほ」の嘆きに近い。


めんどいなあ。来週の、しかも午前中に入ってしまった来行の予定に、いまから「とほほ」感を抱いている。ぼくは銀行という空間が、ほんとに苦手なのだ。