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リンゴじゃなくってアップルで。

香港の民主派日刊紙「アップル・デイリー」が廃刊になった。

Netflixでドキュメンタリー『ジョシュア:大国に抗った少年』を観て以来、香港情勢は特別の関心を持って見守っているのだけれど、今回の廃刊について、その政治的な位置づけなどをここで付け焼き刃に語ろうとは思わない。ただぼくが気になるのは「アップル・デイリー」を、「リンゴ日報」と訳して紹介するメディアが多いことだ。

中央政府からの弾圧が強まるなか、民主派支持を鮮明に打ち出した、気骨あふれる新聞の名前が「リンゴ日報」。この響きはまるで、リンゴ生産者の業界新聞、もしくはほのぼのニュースを配信する農村メディアである。

中国名「蘋果日報」のアップル・デイリーを「リンゴ日報」と日本語で表記するのは、中国語の意味するところを正確に訳したのだという建前と同時に、おそらく新聞紙面における字数制限がある。「アップル・デイリー」だと9文字。ナカグロを省いたとしても8文字。比べて「リンゴ日報」は5文字。たった3〜4文字の差ではあるが、字数の限られた新聞紙面においては決定的な差となることも少なくない。


たとえば「五輪」ということば。これはオリンピックの正式名称でもなんでもなく、ただの新聞用語である。「オリンピック」の6文字が紙面上、どうしてもうざったい。6文字も使うのはもったいない。そんな新聞業界関係者たちの苦肉の策が、5つの輪によるオリンピック・リングをモチーフとした「五輪」の造語だった。これを「オリンピック」と読ませてもいいし、「ごりん」としてもいい。6文字を要するオリンピックが、4文字も節約できるのである。


で、なにが言いたかったかというと、ウェブメディアの普及によって「字数制限」という概念は徐々に崩壊し、「五輪」みたいな新聞用語を創作する必要も減っていって、日本語そのものが変わっていくんだろうなあ、ということだ。加えて、「リンゴ日報」表記を使ってるメディアは、その流れに気づいてないんだろうなあ、ということだ。

(日経は「アップル・デイリー」表記なんですよね)