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30年ぶりに思い出した、あのニュース。

ガソリン価格がぐんぐん上がっている。

すこし前から「上がっている」という報道には触れていたものの、いまいち実感がなかった。けれども今朝、犬の散歩中に通り過ぎようとしたガソリンスタンドの前でぼくは、ちょっとした驚嘆の声をあげてしまった。


ハイオク:170円


ええーっ。いまって、そこまで上がってるの? 車はよく使っているし、つまりはガソリンも定期的に補給しているはずで、ハイオクが160円台に突入したおぼえはあるものの、170円を超えたのかあ。ガソリンスタンド特有のアナログ式デジタル数字を見つめながら、先を急ぐ犬とともにその場を通り過ぎた。

ガソリン価格の高騰と聞いて、まっさきに思い出すニュースがある。湾岸戦争が勃発した1991年。ニュースステーションだったか、ニュース23だったかの番組で「アメリカではいま、こんな歌がヒットしています」と、ガレージパンクっぽい曲が紹介された。

それは「くたばりやがれフセインめ。てめえのせいでガソリンが高くなったじゃねえか」という内容の歌だった。自国を中心とする多国籍軍が空爆を開始するなか、なんと牧歌的な態度だろうと感心したことを憶えている。いまも基本そうだけれど、当時の日本にとって「戦争」は、もっともっと特別で深刻なイシューだった。そのギャップに呆れかえったのだ。


そして数年後。ライターになったぼくは、経済雑誌の仕事で投資ファンドのお偉いさんにインタビューすることになった。「日本人には投資マインドが足りない」的な特集だったのだけれども、アメリカ生活の長いその方は、こんなことをおっしゃっていた。

「アメリカ人って、貯金するように投資をするんですよ。たとえばスーパーであたらしい洗剤を買う。使ってみたら汚れ落ちがよかった。会社を調べると、業績も悪くないらしい。じゃあちょっとその会社の株を買っておくか。こんな感じで株式投資する。投資が生活に溶け込んでいるんです」

彼の話を聞いてぼくが思い出したのは、「くたばれフセイン」の歌だった。あんな歌が出てくるのって、もしかしたら戦争が生活に溶け込んでいるってことなのかなあ、と。投資のことはよくわからないけれど、戦争が生活に溶け込んだ国ってのはちょっと、お断りしたいなあと。

アメリカでは今回の原油高で、また「てめえのせいでガソリンが〜」の歌を歌っている人がいるのだろうか。いるとしたらその人は、誰のことを「てめえ」呼ばわりしているのだろうか。うーん。新型コロナウイルスはあんまり「てめえ」と呼びにくいよなあ。