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どうでもいい記憶のなかに。

子どものころに見た、クイズ番組の一場面。

クイズダービーだったように記憶している。司会は間違いなく大橋巨泉さんだった。問題は「ビートルズという言葉に、ある文字を加えるととてもカッコ悪いものになります。その文字を答えてください」というものだった。問題の画面には「○○ビートルズ」と書かれてあった。この○○に入る文字を答えよ、というわけだ。感覚・感性の話であり、いかにも大人の話であり、小学生のぼくにはさっぱりわからなかった。

そして、はらたいらさんが「楽団ビートルズ」と答えた。巨泉さんが「いいねえ。うん、惜しい!」とねぎらう。篠沢教授が「兜虫団」と答えた。巨泉さんが「そうじゃないよ!」と笑う(ぼくはこのとき「兜」という字を知った)。

果たして答えは「東京」だった。

回答者一同が「ああ〜」と納得し、巨泉さんが「ほら、『東京ビートルズ』はいかにもダサイだろ?」と笑っていた。福岡在住で、東京という首都にあこがれ、しかもビートルズというバンドのことも知らなかったぼくには、最初から最後までよくわからないままのクイズだった。

高校生のときに見た『いかすバンド天国』、通称「いか天」での一場面。

登場したパンクっぽいバンドが「トラブル」という自前の歌を披露した。サビのフレーズは「君は trouble〜」だった。「きみはトラボォー」みたいな感じで発音していた。審査員の評価は低かった。講評のなかでひとりの審査員が「そもそも trouble って単語は発音がむずかしいんですよ。だからタイトルと歌詞をこれにしちゃった時点で、ダメでしたね」というほどの話をした。レイナード・スキナードの「Double Trouble」って曲を思い出しつつ「そんなことより曲で評価してやれよ」と思った。

ひるがえっていまの時代。「東京ビートルズ」のバンド名はぜんぜん大丈夫な気がする。「東京ローリング・ストーンズ」なんて、むしろかっこいいほどだ。そして日本人がカタカナ英語で「きみはトラボー!」と歌ってても、誰ひとり文句をつけない気がする。

アメリカ的であったり、英国的であることがすなわち「本格的」とされていた時代は、少なくとも音楽シーンからは消えたなあと思うのだ。そりゃ教養のひとつとしてそのへんのルーツは知っておいてほしいものの、「うわー。まるで洋楽みたいだ」は、そこまで価値を持たない時代になっている。

ビジネスの世界では、いまもアメリカ発の経営手法や管理手法が尊ばれていたりするけれど、それも「東京ビートルズ」を笑っていた時代みたいな空気に後押しされてるところがあるんじゃないかなー。


まあ、クイズダービーの話も「いか天」の話も、われながら「なんでそんなこと憶えてるの?」な些事だ。しかしどうでもいい記憶のなかには、あたらしいことを考えるヒントが詰まっていたりする。たぶん。