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「つなぎ」の仕事から自由になるために。

おめでたいといえば、もちろんおめでたい。

じつはきょう、1月5日はうちの会社の設立記念日でありまして。どうにか無事に設立2周年を迎えることができました。1周年のような初々しさもなく、3周年や5周年のような区切りのよさもなく、なんとも半端で淡々とした2周年でございます。

せっかくなので少し、会社の話をさせてください。

こんな会社をつくろうと思う、という話を幾人かの友人たちに打ち明けた3年近く前。積極的に賛成してくれたひとは、たぶんほとんどいなかったと思います。もちろん「応援するよ!」とは言ってくれたのですが、主にふたつの側面から、暗に「むずかしいと思うよ」と諭されました。

ひとつは、ぼく自身の経営者としての資質。自慢じゃありませんが、ぼくにはこれっぽっちのリーダーシップもありません。そして優れた経営者たちが一様に持ち合わせているある種の狂気も、まったくゼロ。豪腕タイプでもなく、調整型でもない、あえていうなら傍観型のライターです。そんなきみに会社経営なんて、うまくいきっこないよ。フリーとして、もう少しゆるやかなチームをつくるとか、なんか別の方向で考えたほうがいいよ。そんなアドバイスを、幾人からか受けました。

そしてもうひとつはビジネスモデルとしての甘さ。そりゃ崇高な理念ではあるけど、実際問題としてそれじゃ儲からないでしょ。食っていけないでしょ。あきらかに貧しくなるでしょ。これはもう、「応援するよ!」のひとを含め、ほとんど全員がそう言っていました。


リーダーシップの問題については、それほど深刻にとらえていませんでした。ぼくがイメージしていたのはデザイナーさんの事務所みたいな会社だったし、そこに必要なのはリーダーシップや経営手腕よりも、ぼく個人の信用や技量であるはずで、まあそこで転んでいるようじゃどのみち早晩食えなくなる。それに、若い人に教えたり、みんなで話し合ったりしていくなかで、自分自身も成長できるというあてずっぽうな自信もありました。

一方、けっこう真剣に悩んだのは「食えなくなる」です。

ぼくらの会社では、「本」のライティングだけに特化してお仕事しています。雑誌やウェブ媒体のお仕事を認めないわけじゃないけど、それは個々人が個人事業主としてお引き受けする。会社としてやるのは、「本」だけ。

ところが本というのは典型的な浮草商売でもあって、売れなかったらちっとも儲からないんですね。初版の数千部で終わる本の印税なんて、ほんとに微々たるもの。一般的な話としていえば、1年かけて書いた本の印税が数十万円、月あたり数万円で終わることもザラです。

だから会社をつくる前後には、本(印税)だけじゃない別の定期的な収入源、たとえば広告関係のお仕事だとか、編集プロダクション的なお仕事だとか、そういうのも必要なんだろうなあ、と考えていました。そうねえ、ビジネスモデルねえ、と。


でも、これはなかなか表現がむずかしいところなんですけど、ぼくらライターが「食いつなぐ」ための仕事を続けていたら、ぜったいに先細りしちゃうんですよ。

ライターの仕事はただでさえ利他的というか、あふれ出る自分の思いを作品に昇華させるアーティストとは違って、誰かの思いを昇華させるのをお手伝いする仕事なので、根っこのところにその誰かへの「好き」がないと、ぜったいにうまくいかないものなんですね。好きになったあのひとのためにがんばる、みたいな軸がないと。ところがここに「食いつなぐ」という別の軸が入っちゃうと、どうしても心がブレる。好きになる努力をあきらめ、好きになることをしないまま、お金のためにお仕事しちゃう。結果、でき上がる原稿もつまんないものになっちゃう。好きじゃないひとのために書いた原稿なんて、おもしろくなるはずがないんです。

だから金銭的な意味で「食いつなぐ」とか、対クライアント的な意味で「関係をつなぐ」とか、そういうモチベーションで仕事に臨んでると、いつまでたっても次のフェーズにいけない。ぜんぶが「つなぎ」の仕事になっちゃう。

理想論に聞こえるかもしれないけど、やっぱり儲けってのは「あらかじめ確保する」ものではなく、「あとからついてくる」ものだと信じる勇気が必要だと思うんです。

いかにして「日銭」から自由になるか。それはわかりやすい定期収入を確保することではなく、なんか別のところにあると思うんですよねえ。これは会社としても、ひとりのライターとしても。

……なんだか会社の話を書くつもりが、ライター論みたいな話になっちゃいました。「つなぎ」の仕事から自由になるために、バトンズという会社がある。無理やり、そんなまとめとしておきます。