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そうは語らずとも心の準備を。

ニュースを追うような話は、なるべく書かないようにしているのだけれど。

エリザベス女王が亡くなられた。「健康が懸念される状態」と報じられたのが昨夜。その特殊な、どこか符牒めいた言いまわしのあと、英王室メンバーが続々と女王のもとへと向かっていると報道は続いた。ぼくが気づいたころにはすでに、BBCが特別報道番組を組んでいた。女王の健康を気遣いながらも、女王の足跡や功績を振り返ってみたり、王位がチャールズに継承された後の話を差し挟んだりと、そうは語らずとも視聴者に心の準備を促すような構成になっていたように思う。

そのなかでぼくがいちばん驚いたのは、首相の任命に関する話だ。

こちら、3日前の投稿からもわかるようにエリザベス女王の姿が最後に報じられたのは、トラス首相の任命だった(ほんとにすてきな写真だ)。

BBCは言う。女王はこれまでの在任期間中、15人の首相を任命してきた。いちばん最初に任命したのはチャーチルである。

……チャ、チャーチル??

それはそれはなんというかもう、「歴史」の話じゃないか。ルーズベルトとかヒトラーとかスターリンとか同時代の指導者がそうであるように「歴史のなかの人」じゃないか、チャーチルは。


著名な誰かの訃報が流れると、決まり文句のように「ひとつの時代が終わった」といわれる。けれど、エリザベス女王がいなくなるということは、時代どころか「歴史」そのものの終わりなのかもしれない。少なくとも英国民にとっては。

心の準備を促すBBCの番組構成。すでに「そのとき」がきているだろうことを察知しながらも、しずかに見守る英国民。不思議な、抑制的な、そしてとても理知的な時間がテレビ画面に展開されていた気がした。

追悼関連記事のなかでは、このエピソードがいちばんよかった。

 ロイター通信などによると、女王が開会式のショーに出ることを、王室のメンバーはもちろん、バッキンガム宮殿に定期的に出入りする閣僚数人にも秘密にするよう、徹底した「箝口令(かんこうれい)」を敷いたという。
 開会式の監督を務めたサム・ハンター氏は「これは、女王が出演する条件の一つだった。パラシュートで登場し、何事もなかったかのように自分の席に着く姿を家族に見せて驚かせたかったのです」と説明した。
(中略)
 開会式の芸術監督を務めたダニー・ボイル氏が出演を依頼すると、女王は5分で快諾したという。
 ただ「こんばんは、ミスター・ボンド」と決めぜりふを言うことを、条件にあげたという。
 「私が何も言わないわけにはいかないでしょう。だって、ジェームズ・ボンドが私を助けに来るのですから」と話したといい、ボイル氏は、椅子から落ちそうになるほど驚いたという。

朝日新聞デジタルより