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お好み焼きの、その味に。

むかし「世界ウルルン滞在記」という番組があった。

俳優さんやタレントさん、いろんな芸能人が海外の一般家庭にホームステイし、たとえば農作業などのお仕事を手伝いつつ、交流を図る。そんなドキュメント半分、バラエティ半分の番組である。日本に帰国する際のお別れシーンでは毎回のように泣けた(なんと言っても司会は徳光和夫さんだ)し、けっこうな人気番組だった記憶がある。

番組ではだいたい、滞在中の芸能人がホストファミリーとその友人たちに手料理をふるまう、というイベントがおこなわれていた。イタリアならイタリアのホストファミリーに対して、現地の食材をうまく使いつつ、自分の得意料理をつくる。ここでの得意料理とはだいたい日本料理で、ステイ先の子どもたちに手伝ってもらったりしながら、わいわいたのしくごはんをつくり、それをみんなに食べてもらうのだ。手巻き寿司をつくる人、蕎麦を打つ人、カレーライスをつくる人、天ぷらを揚げる人。いろんな人がいたのを憶えている。

なかでも「なるほどぉー!」と強く印象に残ったのは、関西出身の若い俳優さんがヨーロッパのどこかに滞在した回だ。

この番組では「うまくできるかなー」とか「緊張するー」とか言いながら不慣れな日本料理をつくるタレントさんが多いのだけど、彼は「おれのお好み焼きは世界一や!」みたいなノリで、つくる前から自信満々だった。そして日本から持参したオタフクソースをかけるなどして、ホストファミリーのみなさんにお好み焼きをふるまった。「どやっ! ワイのお好み焼き、食べてみい!」みたいなテンションだった。

しかしホストファミリーのみなさん、一様にリアクションがうすい。明らかに困った顔で、ジャパニーズ・パンケーキを食べている。箸を置き、水を飲みはじめる人さえ出ている。「えっ!? なんで?」。俳優さんの疑問を察知したスタッフさんがコメントを求めると、ホストファミリーのおとうさんがこう言った。


「うーん。甘いんだか、辛いんだか、はっきりしてほしいよねえ」


俳優さんもびっくりしていたし、テレビを見ていたぼくも驚いた。そうか、あの「あまからい」ソースの味は、異なる文化圏の人々にとっては「居心地の悪い味」であり、もっといえば「気持ちの悪い味」なんだな。そんなの、考えたこともなかったよ。


で、あれから20年くらいが経過して現在、日本にはたくさんの外国人観光客が訪れ、お好み焼きに代表されるB級グルメを堪能している。お好み焼きは言うにおよばず、かつ丼に親子丼、肉じゃが、オムライス、みたらし団子に至るまで、日本の料理には「あまからい」があふれている。

寿司の国際化もいいけれど、それ以上に「あまからい」の国際化は不思議だし、おもしろいものだなあ、と思うのだ。


えーと、昼にぼんやり「会社の近くにお好み焼き屋さんがあればなあ」と思ってたぐりよせた記憶でした。