夢のなかの原稿は。
今朝の4時か、5時くらいだっただろうか。
ああ、またこれがきたか。夢うつつのなかぼくは、若干うんざりしていた。夢のなかで原稿のアイデアがひとつ、浮かんだのである。いま書いている本に入れるキラーフレーズ(○○とは△△である、的なもの)と、それを語る文脈、わかりやすいたとえ話まで、浮かんだ。要するにたぶん、夢のなかで原稿を書いていたのだろう。
いま自分がベッドにいることはわかっている。そのアイデアが夢のなかで浮かんだものであることも、ぼんやり理解できている。忘れないようにメモをとったほうがいいことも、わかっている。けれども、起きたくない。まぶたを持ち上げることさえむずかしいくらいに、身体は眠ったままだ。寝返りはうてるけれど、目が開けられない。さっさとこのまま二度寝したい。
こんなにすばらしいアイデアなのだから、このまま寝ても忘れないだろう。起きたらきっと、思い出すだろう。
甘えのこころが胸をかすめる。そして忘れないように、何度も何度もそのフレーズをくり返し、脳に刻みこもうとする。パソコンを立ち上げ、該当部分をばーっと書き殴る夢を見る。はっ、と目を覚まし、それが夢であったことに落胆する。だめだ、眠る、だめだ、忘れる、だめだ、メモしなきゃ。睡魔と理性が闘っているうちに、膀胱がパンパンにふくれあがる。ああ、トイレの近い中年でよかった。生理現象さえあればぼくだって、起きられるのだ。トイレに立ち上がったぼくは、寝室に戻ってベッドに入りながら、スマホを手に取る。Gmail の下書き機能を使って、懸案のキラーフレーズを書きとめる。ほんとうはもっとたくさんの文章を思いついていたけれど、最低限このふたつだけ書いておけば、あとはするする思い出すだろう。
—— そして数時間後 ——
朝寝坊と言ってもいいくらいの時間に目を覚まし、スマホを見る。
キラーフレーズらしきものが、ふたつ書かれている。そのうちのひとつは、たしかによく憶えている。いい定義だと思うし、実際本のなかでも使うだろう(なのでここには書かない)。
問題は、もうひとつのことばだ。
「キャッチボールとミートボール」
こう書いてあるのだけれども、なんのことだかさっぱりわからない。そしてぼんやり、たいした思いつきではなかったのだろうな、と思っている。夢のなかの原稿は、真夜中のラブレター以上にタチが悪い。